II おじいさん

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 その後、ここに住むことになった私におじいさんは家の中を案内してくれた。私を寝かせてくれていた部屋が空き部屋で、そこを好きに使っていいと言った。風呂場、トイレはダイニングと同じく一階にあり、ログハウス調のコテージのようなこの家は自然の匂いに包まれている。近くには湖、辺りには木が生い茂るこの場所で吹く風はコンクリートに囲まれたあの世界よりも涼しく、夏場は犬の次郎でも家の中で蒸しあがらない。冬場は暖炉に薪を焚べて火を燃え上がらせれば暖をとれる。人が創った固い壁の中で生きてきた私にとって、この世界は新しいものばかりだ。  おじいさんは殆どを自給自足で賄っている。野菜は全て自分の畑で育てており、主食はこの広い湖で釣るという。家とは別に家屋も所有していてそこでは牛と鶏を育てて牛乳と卵を回収している。生きるものはいつか命が尽きるので、寿命を迎えた彼らは火葬するという。自分を生かしてきてくれた相棒たちを食べることはどうしても出来ないと、おじいさんはそれを選択しているらしい。  「ジュンちゃんや。一つ見せたいものがあるんじゃが。」  畑の水やりを頼まれたので手伝いをしていると、おじいさんが突然そう言った。水をかけられ生き返ったように輝く小さなトマトに見惚れていた私はその声で振り返る。おじいさんが手招きしていたのでそちらに行くと、そこにはまだ熟していないが傷みが認められるナスがあった。  「植物も動物も同じじゃ。他と同じ条件で育てても他とは違ってしまうものがおる。」  おじいさんの言うことはその通りだ。人から生まれた子なのに、普通に育ててもらったのに、何故か私はみんなと違う。私はいわゆる不良品なのだ。
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