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八坂は何回目だよ、と言いたげに苦笑を浮かべながらチーズケーキを頬張る。
例の生配信は口を酸っぱくして「観ないでくれ」と頼んでいた。配信中、ずっと寝室に籠らせきりだったことは、今でも申し訳ないと思っている。
「良かった……」
「そんなに観られたくないですか?」
「だって。また臭いって言われるもん、絶対」
だってあんなの——、私が八坂くんを好きだって言ってるようなものじゃない。
火照る脳内で補足しながら口を尖らせる。彼はそんな補足を知る由もなく、口内へ広がる甘さに目を細めた。
「これ旨いですね。ファミレスなめてました」
「でしょ?今度食べに来てよ、私が働いてるときに」
「気が向いたら」
それ絶対に来ないでしょう。
応答を済ませてすぐさまデザートに戻る八坂へ口を尖らせる。とはいえ、機嫌は取り戻したらしいのでミッションクリアだ。
「ご馳走さま」
堪能している家主を置いて、先に立ち上がる。すると彼は「あ、小國さん」と何かを思い出したかのように引き留めた。大事そうにチマチマとケーキを減らしていく手元は、握ったフォークを浮かせていた。
「ん、なに?」
「実家に帰る予定とかありますか。……たとえば、来週末とかで」
来週末——?
先ほどまで甘さに酔いしれていたはずの表情は、すこし目を離した隙に精悍な面構えへと変貌していた。
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