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『××航空 4841便へご搭乗のお客様へご案内いたします。稚内空港強風のため、安全に着陸できないと判断された場合は、新千歳空港へ引き返す条件付き運航となります——』
保安検査を通過する直前、空港内に流れるアナウンスに前の肩を揺らす。八坂は「なんすか」と振り向きながら眉を寄せた。ちょうど、ジャケットを脱ぐタイミングだったらしい。
「ねえ聞いた?条件付きだって。大丈夫かな……」
「引き返されたらバスですね」
「バス?!」
ひとつ進んだ八坂に続き、手荷物とジャケットを詰め込んだ籠を滑らせる。思わず放ってしまった大きな声に、私は後ろへ頭を下げた。
「都市間バス。引き返しても、今日中には着きますよ」
「それじゃあフェリーに間に合わないし」
「……まあ、引き返したら考えましょう」
息を落とした後、セキュリティーゲートを颯爽と潜る八坂。取材で乗り慣れているのか手際が良い。一方私は寸前でもたつきながら、ようやく関門を潜って合流した。
新千歳発、稚内行きの午前便は、ちょうど目の前の搭乗ゲートから案内されるらしい。
私は八阪の隣に座り、十五分後に開始される案内を待った。
——『来週末、実家に帰るついででいいので、すこし付き合ってくれませんか』
あの夜、家主から持ち出された誘いを思い出しながら、札幌土産の紙袋を荷台に置く。
ファミレスのシフトも入っておらず、久々に祖母の顔を見たいと思っていたので、私は首を傾げながらも二つ返事でオーケーした。彼の言う“ついで”が明かされたのは、その後の事だ。
「まさか、八坂くんの実家が稚内だったとはね~。早く教えてくれればいいのに」
「なんでですか」
「だって、ほとんど同じエリアでしょ?」
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