Ⅷ.西洋菊

6/30
前へ
/259ページ
次へ
 しかし、未だに誰を撮るのかは教えてくれないし、どうして同席を?と訊いても適当にはぐらかすので、その訳も分かっていない。帰省とはいえ、せっかく一緒に遠出をするのに分からないことだらけだ。 「心の準備くらいさせてよ……」  エンジン音が響き渡る機内のなか、私は小声で呟いた。  ————……  到着した稚内空港は以前と変わらずコンパクトで、到着ゲートのすぐ隣にチェックインカウンターが見える。反対側には地元信金の広告が掲示されていて、これがいつも“帰ってきた”ことを知らせてくれた。 「あっ、青柊だ!おかえりー!」  ゲートを潜ると、早速目の前から知らない女性が駆け寄ってきたので、私は分かりやすく硬直する。細いスキニーを履きこなす、ワンレンボブの美人だった。  もしかしてこの人が——、 「車で待ってていいっていったじゃん、姉ちゃん」 「姉ちゃん?!」  八坂の背に隠れたまま復唱すると、彼の影からひょこっと美人が顔を出す。「こんにちは!」とワンレンが垂れ、満面の笑みが私を迎えた。 「す、すみませんっ、ご挨拶の前に……」 「いーのいーの、うちの愚弟が説明不足なだけだから。ほら紹介!」  八坂は彼女に肩を叩かれ、息を吐く。第一印象で血の繋がりは感じられないが、少しつり上がった目元は似ているかもしれない。 「姉の森戸(もりと)(かえで)です。年は俺の四つ上だから……小國さんよりも年上です。たぶん」 「そんなことは言わんでいい」
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加