Ⅷ.西洋菊

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 パシンッ、と再び叩かれた肩は先程よりも威力が強かったらしく、彼は顔を歪めた。 「小國縁凪と申します。八坂……青柊くんとは元同僚で、今日は——」 「今日はヘルプで来てもらった。あと、菜乃葉(なのは)も喜ぶだろ」  ふうん……、ヘルプなのね。  今日はお願いします、と無難に頭を下げようとしたところ、彼は淡々と重ねる。聞かされていない同行の理由を、思ってもみない形で明かされた。 「あの、よろしくお願いします」 「うんっ、よろしくね~縁凪ちゃん」  挨拶を済ませて空港を出た後は、駐車場へ向かった。撮影場所まで直接移動するとのことで、楓のワンボックスにスーツケースを積み込む。助手席には彼女の荷物が積まれていたので、私と八坂は後部座席に乗り込んだ。  シートベルトには見覚えのあるアニメキャラのぬいぐるみが掛けられていて、名前を思い出すまで私はそれを見つめていた。 「あっ、『ミラクル☆セイバー』の……!」 「え、なんですか?」 「このキャラクターが出てくるアニメの名前。ようやく思い出せた」  たしか名前はマロンちゃん。  一番最初にHugで撮影をしたときに結月がくれたお面のキャラクターだ。 「なになに?縁凪ちゃん知ってるのー?」  バックミラーで交わる視線に、私は大きく頷く。 「アニメは知らないんですけど、実は思い入れのあるキャラで」 「えっ、もしかしてお子さんいるとか?」 「ち、違いますっ、独身です!」
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