Ⅷ.西洋菊

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 綺麗にって、相手はやっぱり女性なんだ——。  芽生えた自覚症状に刺さる鋭い杭。  仕事でも人を撮ることに重たい腰を据えていた八坂が、真摯に向き合い、撮りたいと思える相手は一体どんな女性なのだろう。私の顔が『タイプじゃない』と一蹴するのだから、楓のように明朗闊達な美人か、それとも素朴な清楚美人か。  車を走らせて約三十分間、微動だにしない隣の横顔を盗み見ながら、私は慎重に覚悟を積み立てた。傷ついた、なんて顔が表にでないよう、あらゆる可能性を加味した妄想で先に心に傷をつけた。  そうすればきっと、本物の深い傷も目立つことはない。
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