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車から出た後も止まらない弾丸。彼の体温を吸ったウィンドブレーカーに伸びそうになる手を、自分のジャケットに滑らせた。
「全然大丈夫。これで十分だって」
「そうですか」
人の気も知らないで、本当に困った後輩だ。
トランクから荷物を取り出すのを手伝いながら、私は息を整える。十月の風はすっかり冬のはじまりを装っていて、気づかれないよう肩を竦めた。
それにしても、まさかこの強風のなかで撮影するのだろうか。 風にもっていかれる髪をどうにか一つに縛り、楓の背中を追いかける。彼女は前に停まっている青い車の窓を叩き、後部座席の扉を開く。
そして、私は目を見張った。
「え……子ども……?」
車から足袋と草履を履いた足が覗き、小花柄の朱い着物を纏った少女が顔を出す。唇には真っ赤な紅を差し、染色を知らない黒髪は艶を光らせる。 その愛らしいパーツ全てがこちらを向くと、隣に居た八坂は「菜乃葉」と手を振った。
「せーちゃん……!」
「久しぶりだな、菜乃葉」
着物を纏った少女は“せーちゃん”に一層目を輝かせる。
「菜乃葉ー、まずは『こんにちは』でしょ? 縁凪ちゃん、うちの娘の菜乃葉です。例のモデルね。で、こっちがウチの旦那」
「こんにちは。森戸彰宏です」
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