Ⅷ.西洋菊

13/30

238人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
 八坂と森戸親子に続いて入っていくのは、背の高い草木に囲まれる『白い道』。海に向かって伸びるのは、フットパスコースとしても名高い一本道だった。 回りが木に囲まれているので、先ほどよりも大分風も収まっている。空を仰ぐと、流れる雲の速さが不思議に思えた。 「すごい……映えそう」 「だから姉貴はここを選んだんだと思いますよ」  レンズの絞りを念入りにセッティングしながら八坂は言う。 「礼文出身なのに初めてなんですか、『白い道』」 「だって、灯台もと暗しというか……知識としては知ってたけど。八坂くんだって、利尻富士に登ったことないでしょ?」 「ありますよ」 「ほら……——え、あるの?!」 「あります」 「意外……」 「意外とアクティブですよ、俺」  ファインダーから横に流された瞳が緩やかに細まる。心臓に悪いことこの上ないが、八坂ぐらいしか頼るところのない私はしばらくその場を離れられないでいた。  撮影中、サポート要員(仮)として駆り出された私は、主にレフ板での光り調整と菜乃葉のヘアセットをフォローした。後者の方はenaの活動で培った技量が役に立ったと言える。 「えなちゃんありがとうっ!」 「すっごく可愛いよ、菜乃葉ちゃん」  失ったものの過程にも、無駄なことは一つもない。  菜乃葉のあどけない笑みがそう教えてくれた。そして、彼女を写す八坂の視線(レンズ)がしっかり“大切な人”を写し出していることに、私は思わず顔を緩めた。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

238人が本棚に入れています
本棚に追加