Ⅷ.西洋菊

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「一旦レフ板は無しでいいです。アップ撮ります」 「わかった」  ヘアの直しを終えた私は、八坂と入れ替わるように後ろへ下がる。「菜乃葉、学校慣れたか?」「いいじゃん、可愛いよ」と、ぎこちなくも丁寧に潜っていく八坂の声に、私は笑みを溢した。  短い期間とはいえ、菜乃葉のために収めてきた“花よめ”が通過点になっていたことを焼きつける。そのせいか、彼を掻き立てた人物が少女だと分かった今も、芽生えに刺さった杭は抜けそうになかった。  今日を迎えた八坂青柊はきっと、これから一層優れたフォトグラファーになっていく。その姿は私には手が伸ばせないほどに眩く、遠い存在になっていく。 「せーちゃん、なんか今日いっぱいしゃべってくれる!菜乃葉たのしい!」 「いつもそんなに喋ってなかった?俺」 「うん。でも、そっちのせーちゃんも好きだよ」 「そっか。なら良かった」  カシャンッ——。  波音と柔らかい風に溶けていくシャッター音。響かせる度にカメラを下ろして菜乃葉に微笑みかける八坂の姿は、すでに十分眩しかった。 「縁凪ちゃん、ありがとうね」  突然、隣から優しい声が降る。先ほどまで菜乃葉の傍で撮影を見守っていた楓が、傍で目を細めていた。 「え……いえ、むしろ大してお手伝いも出来なくて、」 「ううん。そうじゃなくて」 「……?」 「青柊のこと。色々面倒みてくれたんじゃない? “ただの知り合い”じゃないことくらい、実姉には分かっちゃうんだなぁ~」
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