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腕を組ながら、愉しそうに眉を上下させる楓。挑発するときの八坂の表情に少し似ていた。
「わ、私は……私はただ、八坂くんが撮る写真が好きなだけなので……」
「なるほどねー、青柊のこと好きなんだ」
「へ?!」
滑り落ちた口元を急いで塞ぐ。八坂の気がこちらに向いていないことに安堵した。
「あのお姉さん、私が言ったのは写真の話で……」
「ふふっ、嫌いじゃないなあ、その素直じゃない感じ」
ダメだ。この人も鈴木花子と同じ眼をしている。 細く息を吐き終えると、楓は見兼ねて話を戻した。
「最初はね『俺じゃない方がいい』って、断られたのよ。菜乃葉の前撮り」
「そう、なんですか……?」
「うん。菜乃葉のことかなり溺愛してるからねー、アレ」
「アハハ……それは分かります。でも、だったら尚更——」
「だからかな。いい写真を残すなら他のカメラマンに頼んだ方がいいって。青柊ね、あんなんでも自己評価がすっごい低いの。で、クソ真面目」
楓が見据える先で、八坂は彰宏の手を借りながらレンズを取り換える。何度もファインダーを覗いては首を捻り、微調整を繰り返す。
切り取ったその一部からでも分かる実直さは、これまでの彼を見ていても明らかだった。
「八坂くんは写真がすごく好きで。だから、真摯に向き合っているんだと思います。……私も」
「カメラが無かったら、うちの弟はただの捻くれ坊やだったわ」
「捻くれてはいますね、今も」
「あははっ、確かにー!」
腹を軽く押さえて楓は笑う。
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