Ⅷ.西洋菊

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「でも、だからカメラに出会えたのかも。自分だけの世界に籠れるのがいいんだってさ」 「え?」 「特別複雑な家庭ってわけじゃなかったんだけどさ、ウチ。あ、八坂の実家ね。ただ、あの子が物心つく頃に父と私の間で喧嘩が絶えなくて、その後は母と妹の冷戦が繰り広げられて……。情けない話だけど、妹の方は今もちょっと引きずってる」  たった一人、真ん中で。色々汲み取って生きてきたんだ、あの子——。  風ではない何かに楓の言葉が揺らされる。今まで知らされていなかった八坂の一面に聞き入った。 「青柊は賢いから、味方につけようとして皆あの子に愚痴を聞いて貰ったりしてたのよ。主観が変わってシチュエーションが食い違うこととか、もう菜乃葉の歳で色々悟って、理解することも諦めてた気がする」 「あ……」 「ん?」 「いえ……前に八坂くん、『人は面倒なものだ』って言ってたなと思って」  苦笑を添えると、楓はまた腹を抱えて笑い出す。 「言いそ~~!あと、波風立てないためにはどっちにも良い顔をしなきゃ、とか。そういう積み重ねで、自分の考えも意見も隠すようになっちゃって」 「……だから、自信が無いんでしょうか」 「うん。反応が怖かったんだと思うよ」  ——“人と撮る” って、被写体(ひと)とその反応に向き合うことだから。  波と雲の流れが綺麗に重なる。それを遠目に見据えた直後、楓は菜乃葉に手を振った。どうやら次は親子三人で写真を撮るらしく、八坂も屈んだまま手招きしていた。
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