Ⅷ.西洋菊

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「えなちゃんえなちゃん。今日ね、本当はかみのけ切っちゃおうとしてたの」 「え……?そうなの?」 「うん。ひちごさんのお写真が終わったら切ろうねって、ママとゆびきりしてたの」 「菜乃葉、“ひちごさん”じゃなくて、“しちごさん”な」 「……ひ、しちごさん……?」 「そう。上手だな」  菜乃葉の頭を優しく撫でる八坂。反動で目を瞑った少女は幸せそうに笑みを咲かせた。  なんだろう。ちょっと羨ましい。 「俺は長い方が好きだから、そのままでいいんじゃない?」  菜乃葉の髪を絡めとる彼の指を眺めながら、私は自分の毛先を見つめる。月に一度のトリートメントでどうにか艶を保たせているが、やはり若さには叶わない。  ……でも、伸ばしていて良かった。 「菜乃葉ちゃんならどっちも似合うと思うけど、どうして切るのやめたの?」 「本当はね、ママみたいにしたかったんだけど」 「たしかに、ママは短いの似合ってるよね」 「うん。でもね……えなちゃんが、すっごくすっごくかわいいから」  無垢な瞳が一所懸命に訴える。自分の髪を握りしめた小さな手に、私は自分のそれを重ねた。子どもの体温は想像以上に温かかった。 「……それで、伸ばすって決めたの……?」  大きく縦に振れる小さな頭。丸見えの旋毛が愛おしくて、思わず彼女を抱き締めた。 「ええ~……もうどうしよう。菜乃葉ちゃん持って帰りたい」 「やめてください」 「菜乃葉、今日はえなちゃんと一緒のお部屋で寝たい!」  少女の小さな手も背中に及ぶ。
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