Ⅷ.西洋菊

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「菜乃葉もそれはだめ。このお姉さん、イビキうるさいから」 「ちょっと、嘘吹き込まないでよ」  八坂を睨みながら体温を剥がすと、菜乃葉が再び笑う。  その表情を前に、私は無意識にあおいの表情を重ねていた。かつての小國縁凪を「憧れなんです」と言ってくれていた笑顔を重ねていた。  しばらく浸っていると、菜乃葉は小首を傾げて唇を割る。小さく縦に動くその口元に視線は釘付けだ。 「あのね、えなちゃんはずぅっとかわいかったけど」 「……うん?」 「せーちゃんの隣だと、ちょっとちがう感じがするの。かわいいけど」 「え?」 「えなちゃんは、せーちゃんのこと嫌いじゃない?好き?」  純度だけで構成されたその台詞に、脳裏には狡い言葉ばかりが渦を巻く。しかし、菜乃葉はさらに純度の深い瞳でまっすぐ見つめる。  その間、“せーちゃん”はだんまりで、私はますます彼の顔を見られないでいた。 「えなちゃん?」  菜乃葉の首がさらに傾く。答えは一つに決まっていた。 「うん……もちろん好きだよ」  安堵したような少女の表情とは裏腹、熱をもった言葉が重く圧し掛かる。「よかったぁ、菜乃葉は二人ともだいすきだから」と締め括る菜乃葉に、笑い掛けるだけで精一杯。  八坂はただ、彼女の頭を先ほどと同じように撫でていた。 「なのー!菜乃葉ー!」  しばらくして、廊下に響き渡る声に「はーいっ」と返事をして立ち上がる菜乃葉。彼女は襖に向かいながら、名残惜しそうに振り返る。 「……たぶん、本のじかんだ」 「本?」 「うん。毎日のおやくそくなの。買ってもらうときにね、毎日寝るまえに、ひとつずつ読むっておやくそくしたの。たくさん、いっぱいお話が入ってる本なの」
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