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それなら、私と一緒に読もうか。
寂しそうな菜乃葉の表情に、思わず掛けてしまいたくなる言葉を呑む。代わりに「えらいね」と放つと、少女は素直に目を輝かせた。
「ママと、読んでくる」
「うん。また、髪の毛かわいくさせてね」
「うん!してほしい!」
「じゃあ、私とも指切りしよっか」
指切りげんまん——久しく唇で刻む歌が、再び思い出を呼び起こす。
祖母のドレスを『私が着るまで仕舞っておいてね』と差し出していた小指がいま、菜乃葉との縁を紡いでいた。
「おやすみなさい。せーちゃん、えなちゃん」
「うん、おやすみ」
「おやすみ、菜乃葉」
また絶対あぼうね。と放たれたのを最後に襖が閉じた。
ムードメーカーを失った和室には沈黙が漂い、私は荷物整理をするフリで動揺を覆い隠す。
「小國さん。さっき……菜乃葉に合わせてくれて、ありがとうございました」
先に破ったのは八坂だった。
胡座のままこちらに体を向ける彼の角は、もうすっかり丸まったらしい。すでに整っている荷物に視線を注いだまま、私は首を振った。
「ううん、全然。菜乃葉ちゃんと話すの楽しいし、癒されたし」
合わせてくれてって、どれのことよ。とは聞けないまま彼を振り向く。珍しくばつが悪そうな表情に喉の奥がひゅんと鳴いて、笑うことを忘れていた。
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