Ⅷ.西洋菊

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 それなら、私と一緒に読もうか。  寂しそうな菜乃葉の表情に、思わず掛けてしまいたくなる言葉を呑む。代わりに「えらいね」と放つと、少女は素直に目を輝かせた。 「ママと、読んでくる」 「うん。また、髪の毛かわいくさせてね」 「うん!してほしい!」 「じゃあ、私とも指切りしよっか」  指切りげんまん——久しく唇で刻む歌が、再び思い出を呼び起こす。  祖母のドレスを『私が着るまで仕舞っておいてね』と差し出していた小指がいま、菜乃葉との縁を紡いでいた。 「おやすみなさい。せーちゃん、えなちゃん」 「うん、おやすみ」 「おやすみ、菜乃葉」  また絶対あぼうね。と放たれたのを最後に襖が閉じた。  ムードメーカーを失った和室には沈黙が漂い、私は荷物整理をするフリで動揺を覆い隠す。 「小國さん。さっき……菜乃葉に合わせてくれて、ありがとうございました」  先に破ったのは八坂だった。  胡座のままこちらに体を向ける彼の角は、もうすっかり丸まったらしい。すでに整っている荷物に視線を注いだまま、私は首を振った。 「ううん、全然。菜乃葉ちゃんと話すの楽しいし、癒されたし」  合わせてくれてって、どれのことよ。とは聞けないまま彼を振り向く。珍しくばつが悪そうな表情に喉の奥がひゅんと鳴いて、笑うことを忘れていた。
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