Ⅷ.西洋菊

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「八坂くんのこと好きって言ったのは、合わせたわけじゃないよ」 「……はい」 「普通に好きだよ」 「普通に」 「うん、ふつうに。菜乃葉ちゃんと同じように」  示された岐路は二つ。私はその内、先の見えた平坦な道へ足を踏み入れた。彼にとってただの“通過点”でしかない私に、先の見えない道は歩めなかった。  八坂は適当に相槌を終え、鞄からパソコンとカメラを取り出す。同室については一旦観念したようで、黙々と編集ソフトを立ち上げた。 「今日は、ありがとうございました」  手元はマウスを操作して、視線は画面を走らせながら、彼の唇は淡々とそう動く。横目でその動きを眺めながら、一瞬口籠った。 「……全然いいってば。さっきも聞いたじゃん」 「そうじゃなくて」 「ん?」 「前撮りに付き合ってもらったので、その礼です。あと、花よめは募集再開しておきました。すぐに依頼が入るかは分かりませんが」  殊勝な八坂に目を見開く。 「素直だね、今日は」 「礼くらい言えます。大人なんで」 「大人のくせに、いつも捻くれてる」 「……今日は停戦するって決めてるので、もう言い返しません」  可愛らしい単語を使うな、と感心しながら笑みが漏れる。しかし流された視線とかち合うと、その実直な瞳に固まる。響いていたはずの操作音も無に帰したせいで、再び緊張の糸が張った。 「菜乃葉を撮れたのは、小國さんと花よめのおかげなので」 「え?」 「人を撮るのが楽しいって感覚、大分取り戻せた(・・・・・)気がします」
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