240人が本棚に入れています
本棚に追加
PC画面に浮かぶ菜乃葉の写真データと、柔い笑みを浮かべる八坂を交互に見ながら反芻する。
「え……取り戻せた、って、昔は撮ってたの?」
同時に楓が云った彼の生い立ちを辿り、首を傾げる。
聴いた家庭の環境から、てっきり最初から人を撮ることを避けていたのだと思っていた。
「一応、写真部のときにはそれなりに」
「写真部……」
「高校は部活目当てで選びましたし、普通に撮ってましたよ」
「じゃあどうして、」
皆まで言う前に汲み取った八坂は、カメラに視線を注いで切なげに笑みを零す。
自分を押し込め、コミュニケーションが不得手であったこと以外にも理由がある。彼の横顔はそう語っていた。
「気になりますか」
「え……いや……無理に話さなくても、」
「知りたいですか、俺の事」
再び私を捉える瞳に心臓が鳴る。肋骨が張り裂けてしまいそうなほどに大きな一打ちだった。
「——うん。知りたい」
声は震えていないだろうか。しっかり紡げているだろうか。
乱れる脈の音が鼓膜を占めて、自分の声すら拾えない。心なしか潤う彼の真剣な眼差しに緊張が張りつめる。意味もなく、泣きそうになった。
「取り留めのない話ですが」
「ううん。そんなことない」
「……ありがとうございます」
最初のコメントを投稿しよう!