Ⅷ.西洋菊

29/30
前へ
/259ページ
次へ
 自分の写真が足枷になってしまった。そんな言い方に聞こえたのは、きっと気のせいではない。  私は懸命に喉を開いて、拳を握りしめた。 「絶対、八坂くんの写真は足枷になんてなってないから。絶対に」 「言いきりますね」  八坂はこちらに視線を流し、息を溢す。 「破ったそのときは分からなかっただけ。ちゃんと、……ちゃんと写真を見れば、八坂くんがどんな思いで写してくれたか分かるよ。なんで渡したのかも、きっと伝わってるよ」  言い終えると、思いの外力んでいたのか息切れを催す。八坂は笑った。 「小國さんは励ますの巧いですよね。前もあったな、こんなん」 「そうだっけ……?」 「はい。電車のなかで」 「……ああ、うん、あったかも」  思い出し、顔を見合わせて同じように笑みを零す。すると、彼はゆっくり私の手を掬い上げた。突然のことで、心臓と連動したように肩が跳ねた。 「な、なっ、」 「まあこんな感じなので、また人が撮れるようになったってのは割とすごいことなんですよ。俺にとっては」 「あ、の……この手はいったい……」 「すみません。菜乃葉への接し方が抜けなくて」 「——っ」  だったら早く放したらいいものを、と声にならない声で叫ぶ。全く解放する気のない憎たらしい笑みに、血管がはち切れそうになる。紅潮する顔を隠そうにも両手が塞がれていては困難で、私はただ視線を横に逸らした。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加