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「不本意ですが、感化されてたみたいです。わりと最初から」
「……感化?」
「SNSのことも、元旦那に対してもそうでしたけど、逃げずに立て直そうともがく泥臭さとか」
「泥……」
「自分の弱さを自覚して、それを強さに繋げようとする小國さんに、感化されてました」
握られた手に軽く力が込められる。一緒に心臓まで絞られていることを、八坂は知らない。
「だから、今日はついてきてもらったんです」
証拠に、彼は追い討ちをかける。ビー玉のような双眸に貫かれた眼球から、脳ミソまで隈無く熱された。
「しっかり菜乃葉を撮れるようになったところを、小國さんには見てほしかったから」
「——……」
瞬間、心臓はついに止まってしまったのかと思うほど静かになる。怖いくらい、脈の波も平坦だった。
「八坂くん」
「はい」
「私——八坂くんが好き。……大好き」
それは、誤魔化しの効かない気持ちが溢れる、兆しだった。
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