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「草って……野菜とか海藻って言ってよ」
「カッカッ、たしかにそうだ!」
相変わらず変な笑い方だなあ、と思わず吊られて笑みが零れる。
「縁凪ちゃんは別嬪さんだからなあ、女の子らはみんな真似してたぞ」
「家ではお肉も魚も食べてたよ。ねえ、お婆ちゃん」
「そうだねぇ。本当はよく食べる子だよ、昔から」
祖母は応えながら、急須からお茶のおかわりを注ぐ。彼女専用のセルフサービス仕様になっていた。
「向こうでなにかあったかい?」
小さな両手が包む湯呑みのなかで、焙茶が静かに揺れる。その波を見据えながら、私は首を振った。
「ううん。全然普通だよ」
「ちゃんと、ご飯も食べられてる?」
「うん。美味しいご飯を食べられてるよ」
栄養にも偏りのない、美味しいご飯を食べられている。花嫁修行の出番は全くなくなってしまうくらい、美味しくて温かい。
毎日カウンターの向こうで調理する彼の姿を浮かべ、すぐに掻き消す。今夜帰れば、きっとまた温かいご飯が待っているのだと思うと嬉しくて、同時に喉が詰まった。
「ウニ丼、美味しいなあ」
なんで言ってしまったんだろう。なんで、逃げてきてしまったんだろう。
時価の丼を贅沢にかき込みながら、数日前の出来事がフラッシュバックされる。
浮かんだ映像に必ず居るのは、私の告白に目を見開く八坂と、その後すぐに逸らす八坂だった。
——『ごめん。……やっぱり私、今日は菜乃葉ちゃんと寝ようかな』
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