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「スナップの件は、お話した通りキャンセル料は頂きません。今回の費用の件も後日で大丈夫ですから。その……今は少しでも、おばあさんの傍に居てあげた方がいいんじゃないですか」
「……はい。ありがとうございます」
ぶっきら棒な声色で、しかし懸命に寄り添おうと選ばれた八坂の台詞に、私は隣で笑みを零す。最後に相手から目を逸らしてしまう所は勿体ないが、八坂は確かに成長していた。
「それじゃあ、最後に——」
顔を持ち上げた智春は、再びこちらを見据える。上がった前髪のお陰で、歌声のように清廉な瞳が実直に貫く。私は思わず息を呑んだ。
「“花よめ”さんに依頼をしようと思ったのは、enaさんだと知っていたからです。……enaさんだと判らなければ踏み切れなかった」
「そう、だったの……?」
「ずっと会いたかった。祖母のことがあって、“花よめ”の存在を知って、今日さらに固まりました」
心臓を叩く大槌が汗腺をも刺激する。予感に、こめかみへ冷たい汗が滲む。
「今日のことを、僕は“本物”にしたい」
予感は概ね的中していた。隣を気にする余裕もなく、私は貫かれたまま硬直した。
「騒動になっているとき、本当は力になりたかった。“花よめ”を再開されたときは本当に嬉しかった。——初めて会ったときから……僕は縁凪さんが好きです」
「すっ……えっ」
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