Ⅸ.胡蝶蘭

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「スナップの件は、お話した通りキャンセル料は頂きません。今回の費用の件も後日で大丈夫ですから。その……今は少しでも、おばあさんの傍に居てあげた方がいいんじゃないですか」 「……はい。ありがとうございます」  ぶっきら棒な声色で、しかし懸命に寄り添おうと選ばれた八坂の台詞に、私は隣で笑みを零す。最後に相手から目を逸らしてしまう所は勿体ないが、八坂は確かに成長していた。 「それじゃあ、最後に——」  顔を持ち上げた智春は、再びこちらを見据える。上がった前髪のお陰で、歌声のように清廉な瞳が実直に貫く。私は思わず息を呑んだ。 「“花よめ”さんに依頼をしようと思ったのは、enaさんだと知っていたからです。……enaさんだと判らなければ踏み切れなかった」 「そう、だったの……?」 「ずっと会いたかった。祖母のことがあって、“花よめ”の存在を知って、今日さらに固まりました」  心臓を叩く大槌が汗腺をも刺激する。予感(・・)に、こめかみへ冷たい汗が滲む。 「今日のことを、僕は“本物”にしたい」  予感は概ね的中していた。隣を気にする余裕もなく、私は貫かれたまま硬直した。 「騒動になっているとき、本当は力になりたかった。“花よめ”を再開されたときは本当に嬉しかった。——初めて会ったときから……僕は縁凪さんが好きです」 「すっ……えっ」
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