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突然の告白は、歌詞に紛れる叙情的な言葉よりずっとストレートで。予感していたはずなのに、私は唇を震わせていた。ここまでとは想定外だ。
「答えは急ぎません。きっと、色々おありかと思うので」
唇を一直線に結んだ智春は、八坂に視線を流す。しかしすぐにこちらへ向き直った。
「その代わり、ライブに来てください」
「え……あ、はい」
「チケット、また送ります。カメラマンさんの分も、良かったら」
愛想笑いを知らない智春は、隣を一瞥するだけでピクリとも表情を動かさない。しかし八坂の方は、うっすらと笑みを浮かべていた。
「はい、ぜひ」
本当に行く気があるのだろうか。そもそも、智春はいつから私を恋愛対象として見ていたのだろう。最初って、一体いつから——。
「早くカギ開けてください」
「あ、うん、ごめん……」
家の前に着いてもなお逡巡していた私は、背後からの冷たい声に肩を弾いた。
帰りの車内で沈黙を貫いていた八坂は、コートをおもむろに脱ぎながら廊下を抜ける。寝室に入ったかと思えば、コートを捨ててすぐに洗面所へ向かい、忙しなくキッチンへ辿り着く。
久しく訪れる沈黙の代わりに、パタパタと落ち着きのない足音が部屋中に響いていた。
「今日は……さすがに寒かったね。献立、クリームシチューだっけ。嬉しい」
自分の準備も済ませてカウンター越しに訊ねると、八坂は人参を乱切りにしながら「はい」と短く答える。包丁の下ろされる音が、普段よりも鋭く響いた。
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