二度目のキス

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二度目のキス

 唇が腫れぼったい。僕は翔ちゃんとキスをし過ぎてすっかり唇の感覚がなくなってしまった。それが妙にくすぐったい気持ちで指先でなぞると、翔ちゃんが僕の指先を掴んで微笑んだ。 「侑の唇、さっきより赤くなっちゃったな。…腫れちゃった?ごめん。」 翔ちゃんの筋肉質な身体に寄り掛かっていた僕は、覗き込んだ翔ちゃんのその微笑みの奥に何か言いたげな気がしてじっと見返して言った。  「翔ちゃん、何か気になる事でもあるの?」 すると少し迷った様にしながらも、ため息をついて話し出した。 「ああ。気になるって言うか、まだ中学生の侑にこんな事してしまって良いのかって迷ってる。いや、キスしたのは後悔してないけど、こんなキスしたらもっと色々したくなるだろう?…責めてるわけじゃないけど、侑はこれ以上の事#先輩__・__#とした?」 いい雰囲気なのに、空気の悪くなる事を思い切りぶち込んでくる生真面目な翔ちゃんに思わずクスッと笑ってしまった。  「確かに翔ちゃんが無理やり僕にキスしたら問題だと思うけど、ちゃんと付き合っているなら問題ないんじゃないかな。でも、確かに高校生が中学生にえっちな事してるとか外聞が悪いのかな。 でもそれって僕に判断力が無いって言ってるのと同じ事だよね?翔ちゃんは僕に判断力が無いと思ってる?僕はちゃんと全部分かってて、こうして翔ちゃんに抱きついてるのに。…でも親には言えないか。今はまだ。」  翔ちゃんは黙って僕をぎゅっと抱きしめた。お互いに何も言わなかったけれど、僕らが付き合うのは難しい事には間違いない。まだ未成年の二人には選べる事は多くない。翔ちゃんは僕の頬にそっと唇を触れさせて囁いた。 「一つだけ約束してくれるか?…もう俺以外とキスとか、色々しないって。俺ももちろんそうする。…侑だけだ。」 翔ちゃんが先輩との事を気にしてるのは分かっていた。でもそれは僕にとっても元彼女とのあれこれが気にならないかと言うと嘘になるのと同じ事で、僕たちは詮索しない代わりにもう他の人を身代わりにする事をやめると誓い合ったんだ。  でも僕はひとつだけ翔ちゃんに頼みたかった。僕は思い切って言った。 「翔ちゃん、僕がこんな事を頼むのは自業自得なんだけど、先輩と受験が終わるまで時々一緒にワック食べたりするのはいい?僕、翔ちゃんへの気持ちを誤魔化すために先輩を利用したんだ。 先輩は受験で大事な時期だから、この時期に連絡を切る様な事をして進路の邪魔をしたくない。それがせめてもの僕に優しくしてくれた先輩への恩返しなんだ。一度か、二度ぐらいしか機会も無いと思うけど。お願いします。」  そう言って僕が頭を下げると、翔ちゃんは苦笑して僕を見つめて言った。 「モテる幼馴染の恋人を持つと大変だ。いいよ。先輩は侑に優しくしてくれていたのは確かなんだ。俺のハッキリしない態度のせいもあるし…。一回?二回?…そうは言っても妬ける。」 あからさまに嫉妬心を見せる翔ちゃんに僕は胸がいっぱいになった。本当はキス以上の事をして欲しかったけれど、真面目な翔ちゃんを追い込んで苦しませたくはなかった。僕たちは始まったばかりで、慌てる必要は何もなかった。 嫉妬してる翔ちゃんも何だか可愛い気がしたし、先輩をこれ以上振り回さなくて済んで何処かホッとしていた。  すると急に何か思い出した様に翔ちゃんは僕をじっと見つめて言った。 「青山はダメだ。あいつはああ見えて手が早いんだ。侑の事酷く気に入ってただろう?もう二人だけで出掛けないで欲しい。メッセージのやり取りも本当はしてほしく無いけど。それは侑に任せる。」 僕はすっかり忘れていた青山さんの事を翔ちゃんが気にしていた事に、今更ながら驚いて思わず笑って翔ちゃんに軽くキスして言った。 「っふ。すっかり忘れてた。勿論もう連絡取らないよ。翔ちゃんからも言っておいて?僕に恋人が出来たみたいだって。凄くカッコいい恋人が。」  翔ちゃんの瞳が光った気がして、次の瞬間僕の唇がぬるりと舐められて僕はまたズキズキする様な甘い時間が始まった事を知った。
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