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おはようはエッチ?
「…侑ごめん、起こして。今日学校あるだろ?もう起きないと。一緒に朝食食べるか?」
僕の肩を揺さぶって起こしてくれた翔ちゃんを見上げるのは、寝ぼけた頭も直ぐに冴える様な、何だか居た堪れない恥ずかしさだった。昨夜の事が思い出されて、思わずニヤけてしまう。
すると翔ちゃんが僕にかがみ込んで唇に優しくキスした。触れるだけのキスなのに、嬉しさで一気に熱くなってしまった。僕がぼんやり翔ちゃんを見上げていると、翔ちゃんは少し赤い顔で言った。
「そんな可愛い顔してたら、もう一回キスするぞ。」
思わず僕は両手を伸ばして翔ちゃんの腕を引っ張ると、目を見開いた翔ちゃんに唇を押し付けてキス仕返した。
「…おはようのキスってえっちだね。」
そう呟いた僕に、翔ちゃんはため息をついて僕を引っ張り起こすと、僕の髪をくしゃくしゃにして立ち上がった。
「侑には負ける。時間ないのに煽らないでくれよ。俺、マジで時間無いんだ。」
結局僕たちは慌ててシリアルやらバナナなど手軽なものを食べて、僕は着替えに家に戻る翔ちゃんを玄関で見送った。
僕が家を出る時間まではまだ30分ほどあった。僕はドサリとソファに座り込むと、朝のニュースを眺めながら昨夜の事を思い返していた。
結局僕は翔ちゃんに触れられて、逝かされてしまった。全身を愛撫されてから、痛いくらい高まったあそこを翔ちゃんの大きな手でなぞられて、触れられたら、呆気なく逝ってしまった。
僕に触れながら翔ちゃんは自分自身も自分で扱いていたみたいで、結局僕たちは続け様に白濁を吐き出していた。僕だって翔ちゃんに触れたかったのに、翔ちゃんはさせてくれなかった。
やっぱり僕が年下過ぎて色々気になるみたいだった。そんな翔ちゃんの気持ちも分からなくもないから、僕もそれ以上無理強いは出来ない。本当、翔ちゃんて真面目だよね。でも、そんな所も翔ちゃんらしくて好きなんだ。
結局のぼせ上がって時間を忘れた僕は、走って中学に登校する羽目になった。ひと気の少なくなった昇降口から教室へ慌てて向かうと、階段の所に三年生が数人たむろっているのが見えた。本当はこの階段は三年生がメインで使用する暗黙のルールだったけど、僕は遅刻しそうだったから近道に使ったんだ。
その数人の中に五十嵐先輩が居るのが見えて、僕はこんな日に会いたくなかったなと思いながら会釈して通り過ぎた。先輩のおはようという挨拶に僕も返したけれど、正直顔は見なかった。何だか見れなかった。先輩はどんな顔をしていただろう。
結局それから数日後の受験日間際に、先輩からのメッセージに頑張って下さいと当たり障りのない返事を返して、僕は先輩の受験が終わるのを待った。結局先輩はそつなく合格を決めた。それは毎年一人か二人合格するかどうかの、学校でも話題になるくらい偏差値の高い高校だった。
さすが先輩は、有言実行なんだなと妙に誇らしい気持ちになった。一方で、僕は先輩と向き合う時間が刻々と近づいてくるのに気づいていた。
翔ちゃんの事を言う気はなかったけれど、先輩と終わりにしなければいけない。元々好きにならないでと頼んでいたものの、僕と先輩は近づき過ぎてしまった。
それは僕のせいでもあるし、先輩のせいでもあった。受験の終わった今、僕たちはもう一度単なる部活の先輩後輩に戻るしかなかった。でも戻れるのかな。僕は先輩がどう出るのか全然予想がつかなかったんだ。
僕たちが頻繁に会っていたのは夏休み前迄で、結局それ以降はほとんど会ってもお茶したくらいだ。考えてみればそれが当たり前の先輩後輩の付き合いなのだけど、僕達にとっては普通じゃなかった筈だ。
僕はスマホに浮かぶメッセージをじっと見つめて、歩き出した。
[あの屋上への階段で待ってる]
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