三澤

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三澤

 三澤曰くは、翔ちゃんと仲が良かったら色々話を聞きたいから紹介してくれないかと言う事だった。 「…実際強豪校へ入ったらどうなのかって、生の声が聞きたいって言うか。一応この学校のOBだから聞けるチャンスがあるかなと思ってたんだけど、弟さんが下の学年にいるらしいって聞いてさ。そしたら長谷部と仲良いって言うから。全然知らない弟さんに声かけるより、長谷部の方が、ほら、クラスメイトだから。」 何がクラスメイトだからなんだろう。僕と三澤はハッキリ言って初対面みたいなものなのに。それだったら弟の方が翔ちゃんに会えるチャンスがあるってものじゃないかな。  最近全然生身の翔ちゃんに会えないせいで、僕は妙に意地悪な気持ちになって三澤を見上げた。確かに強豪校へ進む気持ちがあるくらい運動神経も良さそうだ。身長も180cmに近いのではないだろうか。 「…近所の僕に言えるのは、全然忙しくて顔もほとんど見れないって事かな。弟も言ってたけど、家に居ないってさ。合宿も遠征も多いし、高校の勉強はどうか知らないけど、ほとんどバレーボールのために生きてるんじゃないの?」 最近の鬱憤も込めて冷たくそう言うと、三澤は少し驚いた顔をして、次の瞬間満面の笑みで僕の肩を掴んで言った。  「マジで。そっかー、やっぱり強豪校ってすげぇんだな。俺、夏のインハイ決める地区予選の決勝の試合見に行ったんだけど、本当凄かった。温水先輩、二年生なのにレギュラーでさ。憧れちゃうよな。」 僕は翔ちゃんを手放しで褒める三澤に少し冷たかったかと、咳払いして呟いた。 「‥もし温水先輩に会う事あったら、三澤が話聞きたがっていた事伝えておく。それで良い?あと、肩痛い。」 すると三澤は慌てて掴んだ肩を離すと、あの満面の笑みで礼を言うと席を離れて行った。  僕との話が終わったと見て、数人のクラスメイトが三澤のところに声を掛けに行くのを眺めながら、三澤には人徳があるけど僕には無さそうだと苦い気持ちになった。 実際クラス替えの度に、僕に声を掛けてくる人は少ないのはいつもの事だった。テンションが低いのは自覚があるけど、別に人を寄せ付けたくない訳じゃない。少し面倒なのはあるけど。 部活の仲間を除けば、今の中学で僕が仲良しと言えるのは慶太くらいなのかな。どうせこの学年も受験で、当たり障りのないただの同級生になるだけなんだろう。  だけどその日以来、何かと三澤が僕に絡んでくる様になった。三澤と話をしたいクラスメイト、いやクラスメイトに限らず休み時間になれば廊下から誰かしらに呼ばれる三澤が、どうして僕に絡むののかは謎だった。 しかも僕の前の席が空いてれば、図々しくも座り込んで僕に話仕掛けてくる。三澤の様な陽キャに席を取られたら、持ち主だって戻ってこない。お陰で最近僕は、貴重な休み時間を三澤と話すことで終わってしまっていた。  僕は三澤の顔をじっと見つめて尋ねた。 「ねぇ、どうして最近僕に絡んでくるの?別に嫌って訳じゃないけど、三澤と話ししたいクラスメイトはいくらでもいると思って。」 実際は迷惑だったけれど、僕はやんわりとオブラートに包んで尋ねてみた。すると三澤はキョトンとした顔で僕に言った。 「え?長谷部と一緒にいれば、温水先輩に会える時が直ぐに知る事出来るだろ?」 僕は顔を引き攣らせた。こいつアホだった。実際翔ちゃんに三澤の事なんてひと言も伝えてないのに。僕はイライラして席から立ち上がると、三澤を見下ろして言い切った。  「翔ちゃんは忙しくて僕も会えないのに、三澤が会えるわけないだろ。分かったら、もう僕に声掛けなくていいから。」
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