僕の癒しは

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僕の癒しは

 三澤に意地の悪い事を言った覚えはあるけれど、それにしても僕のイライラは止まらない。本当に僕って翔ちゃんと付き合ってるんだろうか。メッセージ交換だけじゃ、単なる幼馴染と変わらない。 そんな僕の願いが届いたのか、昼休みに翔ちゃんからメッセージが届いた。試験前で部活が休みになったから会えないかって。僕はニヤニヤ笑いが止まらないし、気分も急上昇だ。三澤にきつい事言って悪かったって謝るくらいには。  「翔ちゃん!」 運良く部活がない曜日で本当良かった。私服に着替えた僕は待ち合わせた駅で、目に飛び込んでくる様に柱の側に立っている翔ちゃんを見つけた。もっとも翔ちゃんは抜き出る背の高さで何処にいても目立つ。僕が手を振ると、制服姿の翔ちゃんはにっこり笑って手を上げた。 周囲の女子高生達が翔ちゃんに目をやるのが気に入らないけど、翔ちゃんが僕しか見てないからまぁイイや。僕の所へ歩いて来る翔ちゃんの顔が、何だか眩しくて見れない。思わず顔を背けると、翔ちゃんが僕の顔を覗き込んだ。  「何?どうした、侑。」 僕はチラッと翔ちゃんの顔を盗み見て口を尖らせた。 「別に?ちょっと久しぶりすぎて、直視出来ないだけ。」 すると翔ちゃんは僕の肩を組んで嬉しそうに笑った。 「人前で手を繋ぐのはアレだから、これなら大丈夫そう?」 僕は口元を尖らせて、やっぱり口元が緩まないように頑張って呟いた。 「中学生をカツアゲする高校生みたいじゃない?」  二人でクスクス笑いながら、僕たちは駅前でバーガーを一緒に食べた。これってまるっきりデートみたい。幼馴染の頃だってこんな事したこと無かった。何でもない事でこんなにウキウキするのって、何か不思議だ。好きと言う感情は次々と浮かれた気分を量産するみたいだ。 家に向かって一緒に歩きながら、僕は翔ちゃんに尋ねた。 「…今日は試験休みだから、これから勉強するんだよね?」 翔ちゃんが何て返事をするのかドキドキしながら、僕は真っ直ぐ前を見つめていた。すると翔ちゃんが、僕の指先を軽く絡めてきた。僕はハッとして周囲をキョロキョロ見回した。住宅街のこの時間は案外ひと気が無かった。  「勉強はしなくちゃだけど、まだ侑と一緒に居たいかな…。ダメ?」 そう言いながら翔ちゃんに真っ直ぐ見つめられて、僕は痺れたように首を振ることしか出来なかった。 「今誰も居ないから、入って。」 そう言う翔ちゃんの後について家に入ると、翔ちゃんが飲み物を用意してくれた。僕たちはそのまま階段を上がって、一番奥の翔ちゃんの部屋に足を踏み入れた。  「…翔ちゃんの部屋久しぶ…。」 僕の言葉は翔ちゃんに腕を引っ張られて、バタンと閉じられた部屋のドアの直ぐ側で翔ちゃんの唇に止められてしまった。翔ちゃんの柔らかな唇が、僕の唇をなぞって、何度も触れては離れてその甘い感触を僕にくれた。 「侑…。ずっとこうしたかった。」 そう言って僕を見下ろす翔ちゃんの真っ直ぐな視線に、僕は文字通り焼かれていた。ああ、溶け出しちゃうよ、翔ちゃん。
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