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NO2 おかえりのないただいま
「ただいま〜!!」
普段のように、元気の塊のような声で押し開けるようにドアを開ける。
さて、今日は何処からあの子が現れるのかな。
なんて思いながら、いつも私の胸に飛び込んでくる弟を待ち伏せするように構えた。
だがしかし、数分ほど同じ体勢で待ち続けていても、こちらに向かって走ってくる足音さえも何も響いてこない。
あれ、来ない?
身体を前のめりにしながら、端から端まで室内を見渡すも隠れている様子もない。
すると、背後から今現在私が待ち構えていた弟とは真逆の低い声が聞こえてきた。
「?ノア、さっさと入れ。荷物が重くて、お父さんの腕が千切れそう。」
「え?…あ、ご、ごめん。」
普段はすぐ飛び込んでくるはずの弟がやってこない。
ま、そんなこともあるかと思いながら、お父さんの荷物を半分分けてもらいつつ、リビングにつま先を向ける。
「あれ、こんなに絵の具使って…何やってたんだろあいつ。」
私の目と鼻の先には、色鮮やかな絵の具がべっとりと塗りたくられていた。
「やっぱちびっこは困るねぇ…。でも可愛いからお姉ちゃんは許してあげようじゃないの!さあ出ておいで、私の愛しの弟よ!!」
しかし弟が現れる様子はない。
そして心做しかこの絵具からは、今まで余り嗅いだことのないような独特の匂いが鼻腔をくすぐり、妙に臭く感じる。
すると階段から何かが落ちてくるような音がした。
「…?何、これ…。」
階段からは左腕と思われるものが落ちてきた。
一部の指はもぎ取られているが、薬指には銀色の指輪がはめられている。
「とてもじゃないが…偽物には見えないな。」
お父さんは何処か冷静な表情でその腕を持ち上げると、その切り離された物体の断面図が一瞬だけちらりと見えた。
「…ねえ、おかあさん、帰ってくるのが遅くなってごめんね!でも聞いて、街外れに出稼ぎに行ったら、親切な人が新鮮なお野菜をくれたの!
だから代わりに二人の好きなもの何でも作ってあげる!」
私はただ、身体の弱いお母さんと普段から好奇心旺盛で私達を心配させる弟の為に、家族思いだけどアタマの堅さが悩みどころのお父さんと共に街外れの場所に2日程出向いていた。
それ以上でもそれ以下でもない。
いつもよりも解像度の悪い視界と、音の聞き取りづらい耳、そして何かが詰まっていてツンとした感覚が残る鼻を頼りにのっとした足取りで部屋を探索した。
しかし、それでも尚お母さんと弟の姿は見えない。
――まるで、神隠しに巻き込まれたように。
「あれ、お母さんがいない。それに、弟もいない…。」
「おい、ノア。母さん達に何かあったのか。」
私の動作に違和感を覚えたお父さんは、詰め寄るように少し棘のある言い方で声をかける。だがしかし、その言葉も数秒後には空気と化してしまった。
「ん、…うぇ、げぷ。随分味が濃いナ。でも生き延びrたメには、これぐらいはやらないと生存できナイっテ荳搾ス厄ス�ス奇ス假ス具スゅ▼�厄ス奇ス具ス�…」
「そこでなにしてるの」
そこには、ベッドに横たわる肉塊と身体の部位毎に吊るされた肉塊がずらりと並べられていたのが、意識を手放す最後の映像として残っていた。
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