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次の日。
三時間目の休み時間に後ろの席の藤田未来と右斜め後ろの席の清水杏子に、カウンターを使って下校するカップルを数える遊びの計画をしゃべった。
「ミヤオって、よくなんか拾うよね」
「おれはちゃんと世界を見てるんだよ」
言って、大げさにメガネをクイクイさせたけどあんまりウケてない。
「わたし目が悪いから世界がちゃんと見えてないかも」
「そういう意味じゃないけどな。清水もメガネにすれば?」
「まあ、そうなんだけどね……」
清水はたぶんメガネをすることに抵抗があるんじゃなくて、見た目の変化をみんなに注目されるのが怖いんだろう。おれとちがって清水はそういうヤツだ。
「すげえよな、ミヤオは。おれボーっと歩いてるだけだわ」
相変わらずのんきに言う藤田。
「まあ、これも修行のひとつだな」
漫画家になるためにおれは色々な修行をしている。街の景色をよく見て歩くのもそうだし、おれの考えた遊びを友だちのぺーとガラシとやってるし、学校のみんなを観察してキャラクター作りの参考にしているし、藤田とは「おれが考えた最強のキャラ対決」――略してオレケツ――もしていた。
オレケツは、まずおれがノートにキャラクター名と攻撃力と防御力と必殺技、それに弱点と決めゼリフを書き込んで、それを読んだ藤田が考えたキャラと戦わせるというもので、はっきり言って藤田にはセンスがないから基本的にはおれが勝っていた。今までに五戦やって四勝一敗だ。
唯一の一敗は、おれの「風使いのヒューイ・ヒューイ」と藤田の「デンゲキマン」を戦わせたときだった。どうしようもない名前のキャラを見て、おれは勝ちを確信した。でも決めゼリフの「シビれたろ?」というのを見てマジでシビれてしまった。一発でデンゲキマンのキャラ設定を説明するものだったからだ。デンゲキマンは電撃を使うキャラクターで、決めゼリフからスカした性格なのが分かる。
お見事だ。
急にすごいのを出してきたからビビったけど正直に負けを認めて、セリフがよかったって褒めたら、藤田は複雑な顔になって清水がなぜか小さく笑った。
清水は二年になって初めて一緒のクラスになった女子で、身長が高くて切れ長の目とクールな雰囲気でみんなからちょっと怖がられていたけど、席が近かったのもあってオレケツを一戦目からずっと楽しそうに聞いていて、流れで少しだけしゃべるようになってマンガが好きだってことが分かってからはよく話すようになっていた。
「じゃあ、オレケツでもしますか」
いつものようにおれはノートを開いた。
「よし、今日こそ勝つ!」
藤田が気合を入れる。
タイミングよく鳴った始業チャイムを聞きながら、おれは前から考えていた炎使いの「バベリバ・バリビ」の設定をノートに書いていった。
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