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で、まだ夏休みはいっぱい残ってるのに、思い出はひとつもなかった。
マズイ。非常にマズイ。
ってことで、ペーとガラシを招集した。
で、今のところどんな感じか聞いたら、
「ミヤオが夏期講習でいなかったから、ずっと家でゲームしてたわ」
って、ガラシが言って、
「天体観測同好会の活動があって、なんでか分からないけど横川と里村が来ててさ。里村がうるさくて、サノチンがすげえイヤそうにしてたのが面白かったくらいかな」
って、ぺーが言った。
「里村って星とか興味あったっけ?」
「さあ。アイツの考えてることはだれにも分からないだろ。ヘンジンだし」
「確かに」
ぺーの言うとおり、里村典子は小学校の頃からヘンなことばっかりする女子で、正反対のマジメ女子の横川磨智がなんでいつも一緒にいるのかもよく分からなかった。
「まあ、ぺーもガラシもなんもなかったってことだな。でさ、ここから夏休みを一発逆転するには、世界一になればいいと思うんだよ」
「なんの?」
飲み込みの早いペーが聞いてくる。
「がんばればギリギリいけそうなのがいいよな」
「早食いとか大食いとか?」
「おれあんまり食べるの、得意じゃないな」
ガラシが顔をしかめて言う。
「じゃあ、ガラシはどういうのがいい?」
「コーラ一気飲みとか?」
こいつら飲食のことしか言わないな。
でもすぐにできるからコーラ一気飲みをすることになって、世界記録を調べたら5.8秒だったからマジでがんばればいけそうだってなった。で、それだけじゃ面白くないから公園の鉄棒にぶら下がってコーラを飲む「逆さまコーラチャレンジ」をやることになった。
で、コーラを買うためにコンビニに行ったら、ちょうどのタイミングで清水が中から出てきた。
清水はメシを買ってて、まあどうせヒマだろうし「逆さまコーラチャレンジ」の動画を撮ってもらうことにした。清水はぺーとガラシがいるせいで怖いほうの清水を発動させてたけど、けっこう強引に誘ったらオッケーしてもらえた。
で、公園に着いて、ガラシ、ペー、おれの順番で逆さまコーラチャレンジをやって、でも途中からどんだけ面白く飲めるか対決になっていていつものようにグダグダで終わって三人で清水に撮ってもらった動画を観てゲラゲラ笑っていたら、
「わたしもやりたい」
って、とつぜん清水が言った。
「マジで?」
さすがにびっくりして聞き返したら、
「やる」
って言って、清水が鉄棒に向かって歩きだした。
遂に面白いことが起きたからテンションが上がって追いかけたら、清水がそのまま鉄棒にぶら下がろうとしたから、
「おい、シャツは中に入れとけよ。エロ動画になっちゃうからな」
って、あわてて言ってシャツを中に入れさせた。
で、清水にコーラを渡して、
「逆さまコーラチャレンジ!」
って、言って、清水の挑戦を見てたら意外といい感じで世界記録更新を見れるかもってワクワクしてたら、清水が豪快に口からコーラを噴き出した。
ビックリして、でも助けなきゃって近くに寄ったら、
「サイアクだ―」
って、笑いながら清水が言った。
あー、これか。藤田はこんな笑顔を見てだれかに恋したんだな。
いつのまにかぺーとガラシも鉄棒のとこまで来ていて、笑う清水を心配そうに見ている。
「おい、清水、大丈夫かよ?」
「今日って、晴れてたんだね」
逆さまの清水が笑いながらよく分からないことを言った。
「ずっと晴れてたろ」
「でも気がつかなかった」
言って、清水が鉄棒から降りるのをおれは見ていた。
「動画、観せて」
清水が言って、みんなで動画を観て笑った。
やっと夏休みの思い出らしい思い出ができたからお礼を言おうとしたら、
「ありがとう」
って、なぜかおれのほうがお礼を言われた。
「じゃあお腹空いてるし、わたし帰るね」
なぜか満足げに帰っていく清水の後ろ姿を見ながら、
「清水、いいなあ。おれ好きになっちゃったかも」
って、ぺーがニヤニヤした。
おれはペーに肩パンして、
「やっぱ最高だよな、清水は」
って、なんか自分が言われてるくらい嬉しくなった。
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