九月

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 放課後。屋上。  ちょっと前から小説にハマっているガラシは今日も本を読み始めて、おれはゴムボールでぺーとキャッチボールをしていた。  「おー、すげえ、いまカーブかけた?」  ゴムボールをキャッチしたぺーが言う。 「分かった? やっぱ曲がっちゃうんだよね、おれ天才だから」  カーブなんて投げ方も知らなかったけど当たり前のように言ってボールをキャッチする。天才キャッチボールは四日前におれが考えた遊びで、ふたりとも野球の天才という設定でお互いに褒め合っていい気持ちになろうっていう遊びだった。 「ぺーの球もめっちゃ曲がってるな」 「分かった? おれも曲がっちゃうんだよ、天才だから」  ぺーの言葉を聞いて、なんか急に飽きた。 「これぜんぜん面白くないな。やめようぜ」 「うっす」  ペーが即答する。ペーはいい奴だ。飽き性のおれにずっと付き合ってくれる。 「なんか他の遊びを考えなきゃな」  言って、おれは金網越しに通学路を見た。  まばらに帰っていく生徒のなかに、一緒になって帰る男女二人組がチラホラ見える。 「くそ、増えてる」  ぺーが舌打ちする。 「じゃあ、久々にまた数えるか?」 「そうだな。ぜんぶ見つけてだれが敵なのか分かっとかなきゃな」 「いや、どういうことだよ」  ぺーのヘンな思考回路、マジで面白い。実はおれよりセンスがあるんだよな。  でも、六月くらいにイケメン野球部の菊田と学校一かわいい百合(ゆり)ちゃんが帰っているのを見つけて「最強すぎるだろ」って思ったのがきっかけで飽きた遊びだけど、そういうこともちゃんと知っとかないといいマンガは描けないよな。 「カウンターと双眼鏡、まだあったかなー」  カバンを漁ったらまだあって、カウンターの数字は18でやめたときのままだった。  で、ぺーにカウンターを渡して双眼鏡で通学路を見た。  見つけた十九組目は、ぺーと一緒の天体観測同好会の森田と、ヘンジン里村だった。  マジか。  里村が一方的にしゃべりかけている感じで森田はあんまりリアクションしてなかったけど、里村の歩幅に合わせてゆっくりと歩いていたからべつに嫌いじゃないんだろう。 「いた」 「十九組目」 「つぎで記念すべき二十組目か」  ガラシが言って、おれたちのところに来た。 「なんの記念だよ」  言って、またおれは双眼鏡で通学路を見た。  二十組目のカップルがいた。 「あ……」  藤田と清水だった。 「いた?」  ぺーが聞いてくる。 「……いや」  言って、おれは双眼鏡を下ろした。 「飽きた。やめようぜ」 「うっす」  飲み込みの早いぺーが言った。
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