完璧男子の欠点

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爽やかな5月の晴れの日ーー 抜けるような青空。 新緑が美しいY大学の広大な敷地。 個性的な男女が闊歩しているキャンパス。 そんな平和な午後ーー 「じーん!おーい、(じん)!」 リュックを背負ってメットを被り、バイクに跨った途端、隼人(はやと)から呼び止められる。 隼人は、同じ高校出身のダチだ。 「何?」 「…来てるぞ」 「……いい、ほっとけ」 呼び止められるのが面倒だから、取っているコマを終えてすぐ出て来た。 真顔でふいっと顔を背けた瞬間、隼人が焦る。 「おいいっ…待てってー」 「…」 前に立ち塞がられる。 面倒に思いながらも一旦バイクから降りた。 「何だよ?」 「お前なあ…いくらモテるからってちょっとは自重しろ」 「言われなくても。 避妊はしろ、女には本気になるな、あと腐れなくきれいに遊べって小学生の頃からオヤジに言われてるからな」 「はあ~… それさえなければ完璧なんだけどな、オマエ。 天下の剣持家とはいえ、オヤジさんもオマエも鬼畜だよな~」 「はあ? 初めから『許婚がいる』って言ってるし。 向こうも承知の上だぞ? 大体1、2回抱いたぐらいで彼女ヅラされてもな」 「はあああああ~」 隼人は頭を抱えてしゃがんでしまった。 「オマエ…いつか刺されるぞ…いや、むしろ刺されろ」 俺はフッと笑みをこぼす。 「そんな重いことしてねーよ」 ーーそこまで真剣に心惹かれる相手がいれば…俺の人生も変わるのかもな… なんていうのは世迷いごとだ。 天気がいい。 早くコイツで走りたい。 俺は眩しいぐらい真っ青な空に視線を上げる。 空は、好きだ。 空はただ、空なんだから。 「…」 隼人は俺の顔をまじまじと見ていた。 「何?」 「いや…オマエってホンット…」 「…何だよ?」 「年々美人になるよなあ。はあ…きれいな顔」 「はあ?」 「足、長すぎっ。小顔でスタイルいいし…カッコイイ…!マジ無敵じゃん! ホント別嬪だよ」 少し紅潮している頬。お前は乙女か。 「…俺は男とどうこうなる気はないぞ。今のところ」 仏頂面でそう言うと、隼人はくねっとした。気持ち悪っ。 「いやっ…俺だってないしっ! え、『今のとこ』?え?え? ……いやまて、オマエなら…。 …俺…イケるのか?」 「知るか!俺に聞くな!」 阿呆か。 「はは…!そのイケメンの睨み顔…効く」 「やめろ気持ち悪い」 ったく…コージとコジローはどこ行ったんだ…? 隼人が赤くなってますますくねくねしているうちに、ザッとまわりを固められる。 「迅くん…!」 「迅くーん」 振り向いた視界に女たち。 …ちっ…面倒くさ… 俺はさっと見知った彼女らを見る。 橋本奈央…やたら声大きかった同級のコ。 綾瀬ちの…2年の後輩、細いのに胸は大きくてカタチがいい。が、それだけ。 田村ヒカリ…1年、垢ぬけてて社交的。 俺としたことが、まさか『初めて』とは見抜けなかった…『初めて』の女とはシない主義だから最後までしないでやめたケド。 井上アリス…ハーフかクォーターらしくて脚のラインが良かったな。 それから…3年の廣田まりん? ん?…男に全く興味なさげな…確か文化系のなんかの部長じゃなかったっけ? …このコを抱いた記憶はないが…? 記憶力はいい方だし、酒にも強いから、記憶がなくなるなんてことは俺に関してはありえない。 色んな女を抱いてはきたが、嗅覚は養われているから、メンタル的にヤバいコとか、影があるコ、俺のオヤジの会社をどうこうしようみたいな、裏やバックがあるコには手を出したことがない。 プレゼントこそしないが、その時々の金払いは良く。避妊も病気の予防も完璧。 “きれいな遊び方”は心がけて来た。 「…」 廣田まりんは、おずおずと所在なさげに両手を握りしめている。 隼人が『いいな、ちゃんと話してやれよ』っていう感じの目配せをして、離れて行く。 あいつめ。覚えてろよ。 「…剣持くんっ」 「…何?」 すげーアニメ声。
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