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「懐かしいな。たしか、母星で内紛が起きた時だったと思う。このクローンは兵士たちの慰問に来てて、僕は前線へ物資の補給をしてた。僕達イルマ型は普段人間達に混ざって休息を取ったりすることは禁じられているんだけど、そのクローンは『今日ぐらい良いじゃねえか』って言って、僕達にも歌を聴かせてくれたんだ」
そこまで言うと、イルマはその時の情景を思い出しているかのように目を閉じた。
「とってもきれいな歌声だったよ。音声に残しておけなかったのが惜しいくらい」
それよりも俺はこの男性型クローンに見覚えがあった。差し出された写真を返しながら言う。
「……これ、俺だな」
「えっ」
イルマは今にもこぼれ落ちそうなほど大きく目を見開き、目の前の俺と写真の男性型クローンを見比べた。短い黒髪に日に焼けた褐色の肌、と同じ箇所を探すように視線を巡らせる。
「ほんとだ。……気付かなかった。ジグがあの時の芸能用クローンだったなんて」
イルマは目をまん丸くしたまま、呆然と呟くように言う。
驚いた、という素直な視線を浴びた傷痕がひときわ強く疼き、俺は咄嗟に顔を押さえつけた。
ミミズ腫れのような乾いた皮膚の盛り上がりで覆われた醜い顔。それをじろじろと見られたり言及されることなんてとっくに慣れたはずなのに、未だに体が勝手に竦んでしまう。
すると、それを見たイルマは、叱られた子犬のようにびくっと震えて顔を伏せた。
「ごめんなさい。傷付けるつもりじゃなかった」
「……いい。わかってる。慣れないだけだ」
俺がかすれた声でそう言うと、イルマはしゅんと膝を抱え直して小さくなった。
「……数年前に、母星で空爆に巻き込まれた時のことだ。あの時も俺は戦地へ慰安に向かう最中だった。建物から出た火が偶然ガソリンに引火して、俺や他のクローンが乗っていたトラックが燃え上がった。……運転手や他のクローン達は皆焼け死んだが、俺だけは運良く生き延びた」
しかし見た目も商品価値に含まれる芸能用が、顔に傷を負ってはもう使い物にならない。
それからあまりの痛みにのたうち回りながら叫んだせいで、声を潰した。煙を吸ってひどく咳き込んだのも良くなかったらしい。俺の声帯は再起不能なほどに傷付き、肺にも後遺症が残った。
かつて伸びやかに響いた高音はかすれて出ず、長い間歌い続けると咳が止まらない。喉が引き攣るせいで音程は外れ、喉を裂くように声を絞り出せば噎せ返る。
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