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全身にスポットライトを浴びて立ち、広いホールに一人きりで披露した、荘厳なア・カペラ。故郷の小さなバーの生演奏に合わせて複数人で歌ったポップス。あまり技術の発展していない星に出向いて、子どもたちに音楽の授業の一環として一緒に歌った童謡。
俺にまともな歌声があった頃は山のようにあった仕事の依頼も、俺の今の歌声を聞く度に一件、また一件と減り、それから二度と呼ばれることはなかった。
それでも俺は歌い続けた。歌うためだけに作られたに俺には、それしかなかったから。
喉が裂けて血を吐いても、肺炎を起こして咳が止まらなくなっても、誰も俺の歌を聴かなくなっても、元の歌声さえ戻れば失った親交も取り戻せるとそれだけを信じて。
顔中に包帯を巻き、ひび割れた声をがならせ、取りつかれたように歌い続けるクローンの姿は、周囲からするとさぞかし不気味に映ったことだろう。
今まで俺の歌を聴き、自然と笑みを浮かべていた聴衆は、今やまるで化け物を見るかのような視線を俺に向けて足早に去っていく。
以前俺に『あの曲を歌って』とねだり、一緒に流行りの曲を歌ったことのある子どもたちは、俺の調子外れの声を心底面白おかしそうに嘲笑い、寄ってたかって石を投げた。
その度に俺は誰もいない場所でひとり、痛む喉に爪を立て、血が滲むほど強く握りしめた拳を叩きつけ、滅茶苦茶に叫び出したくなるのを必死にこらえた。
そんな生活がどれだけ続いただろうか。
もう楽にしてやると言わんばかりに、俺に第七衛星行きが告げられた。
「……もう諦めろ。お前の声は死んだんだよ」
俺の担当だったクローン管理者から沈痛な面持ちでそう告げられた時、俺は怪我をしてから初めて声をあげて泣いた。
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