人類幸福サポートAI『MYROAD』

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【今朝のメニューは焼き鮭定食です。魚でしっかり、良質なたんぱく質を補給しましょう。朝にたんぱく質を摂取することは、とても大切です。たんぱく質に含まれるアミノ酸トリプトファンは、日中は幸せホルモンのセロトニンへ、夜には睡眠を促すメラトニンに変化し……】  どうやらこれは焼き鮭定食らしい。MY ROAD(マイロード)にとって焼き鮭定食とは『カロリー503kcal、たんぱく質30.3g、脂質5.5g、糖質77.1g』の補給であって、ほかほかの白ご飯と、パリパリの皮が香ばしい焼き鮭である必要はないのだろう。まあ見た目に反して不味くはなく、満足感も高い。なにより無料で支給されているので文句は言えまい。  見た目・味・食感を楽しむ食事というのはもはやただの娯楽になりつつある。AIの教えにより数年前に政府が開始した『食料無料支給サービス』は、多くの人々の食事様式をこれまでと大きく変えた。各家庭で材料を買い集めて調理する必要はなくなり、完全に栄養が計算された一食分ずつのパックを、MY ROADがその日の体調などを考慮して選んでくれるようになったのである。  勿論、食品業界や飲食業界に大打撃を与えて騒動を起こしたが、何事もなるようになるもので、今はだいぶ落ち着きを見せていた。電気が普及し始めた頃のランプのように、進化に犠牲は付きものなのである。  わたしはペースト状の朝食を摂りながら、先月末の会社の飲み会で食べたカリカリジュワーッな唐揚げを思い出す。職場の人々とのコミュニケーションはさておき、次の飲み会が待ち遠しかった。 【朝食パックの在庫が少ないようですので、追加発注いたしますね】  MY ROADはそう言うと、ピッと電子音を立てて発注の通信を行った。目には見えない電波が、わたしの目の前を通り過ぎて空を飛び、社会を司る大きな脳みそに送られているのだろうか。 「ご馳走様でした。MY ROAD、今何分?」 【7時30分です。出勤時間まで残り40分。そろそろお着替えをいたしましょう】 「今日はどんな服がいいかな?」 【おすすめコーディネートを手持ちのアイテムから組み合わせ、何パターンかモニターに映し出します。――いかがですか?日中は半袖一枚で丁度いいですが、朝晩との寒暖差や、紫外線・冷房対策のためにも、薄手のシャツやカーディガンなどの羽織ものアイテムをお持ちください】 「はいはい」  わたしはAIの指示に従って身なりを整える。こうしてまた、人類は機械仕掛けの皮をかぶるのだ。 「行ってきます」 【はい、行ってらっしゃいませ。今日も人類が幸福たらんことを】
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