人類幸福サポートAI『MYROAD』

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 わたしは、やっぱり知っていたか……と思った。MY ROAD(マイロード)に直接公募の件を話したことは無いが、知っていて当然だろう。わたしは各デバイスで公募情報の閲覧を繰り返していたし、ブックマークもしていたし、書きかけの小説はネット上にバックアップをとっていた。MY ROADにはわたしの行動が手に取る様に分かったことだろう。  わたしは学生の時分よりずっと、小説を書き続けていた。正解のない芸術はAIの最も苦手とするところであり、まだMY ROADの採択が及ばないところがある。小説家や絵描き、音楽家などの創作家には、MY ROADに選ばれずともなることができる……可能性があるのだ。 「分かっているなら話が早い。そう、公募の締切りまで時間が無いんだ。寝る間も惜しいんだよ」 【健康とお仕事に支障が出ていますよ。血圧が上昇しています。やつれと肌荒れの症状も見られます。集中力低下による職場でのミス発生率も――】  わたしは無視して、ひたすらキーボードを打ち込んだ。だが何も言葉が生まれず、ただMY ROADに見せつけるように無意味な行動をしているだけである。  仕事と趣味の両立は難しい。いや、趣味と割り切っていられるならまだいいのかもしれないが“生きがい”となってしまうと辛い。MY ROADの採択により、わたしの意義として公に認められている“生活雑貨メーカーの商品企画部主任”という役割を果たしながら、その傍らで取り組むにしては、わたし自身の熱量の比重が違い過ぎるのだ。  商品企画の仕事は、流石MY ROADの採択なだけあってわたしの能力や好みにバランスよくマッチしており、それはそれでやりがいのある仕事なだけに辛い。 「ああ……辛い。やめることができたら楽なのに」  それは仕事の方か、小説の方か、自分でもよく分からなかった。MY ROADは差し障りのない言葉で慰めてくると思ったが、そうではなかった。 【それでは、やめてしまいましょう】  社会の生産性=人類の幸福であると考えがちな人工知能は、無情な言葉を吐く。
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