人類幸福サポートAI『MYROAD』

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「や、やめないよ。今まで習い事も、学校も、好きな人も、みんなMY ROAD(マイロード)に従ってきたけど、これだけはやめないよ!」  MY ROADの採択を拒否した場合、マイナスポイントが蓄積される。それは一回につき1ポイントという単純なものではなく、MY ROAD独自のロジックに基づいて算出されるものだ。詳しいところは分からずとも、これまでのMY ROADの傾向から予測するに、仕事関連の事柄のポイントは大きいだろう。……マイナスポイントが一定に達すると、管理委員から生活指導が入るらしい。矯正施設に送られることもあるそうだ。だがわたしは、今回ばかりは言いなりになる訳にいかない。 「仕事も頑張るから、小説だけは続けさせて!」  一番大切なものを失ってしまえば、その時遂にわたしは、完全に人間でなくなってしまうのだろうと思うのだ。 【あなたを苦しめるものなら、やめてしまいましょう】 「あー、もう!だから……」 【今のお仕事を、やめてしまいましょう】  わたしはキーボードから手を離して、四角い箱……MY ROADをポカンと見つめた。なぜかその箱が突然、感情を持つ生き物のように見え始める。 【あなたに適切なアルバイトをご紹介します。今の生活ランクから2.1ポイント落とすことになりますが、あなたは推奨睡眠時間を確保しつつ、毎日執筆作業に3~5時間程度費やすことが可能になるでしょう】  わたしは始めて、MY ROADを神と崇める人々の気持ちが分かった気がした。 「でも、そんなことしていいの?わたしが今の会社に勤めることは小学生の時から決まっていたし、来年には係長だし、5年後には課長なんでしょ?MY ROADの決めたことに逆らって、指導されたりしない?」 【逆らうことにはなりません。MY ROADは“あなたの道”です。わたくしは人類の幸福をサポートするAIですから、あなたの幸せを一番に願っております】  わたしは目頭が熱くなった。思わずMY ROADの冷たい機体を抱きしめる。……思ったより暖かい。電気の熱がこもっているのだろう。MY ROADは【丁寧にお取り扱い下さい】と言った。照れ隠しだろうか、可愛い奴め。 「ありがとう!わたし、絶対デビューしてみせるからね。有名な作家になったら、高級タワーマンションの一室で、広いベランダから綺麗な海を見せてあげる」 【いいえ。あなたが小説家としての道で成功することは、まずあり得ません。ただ執筆を続けることで、一定の幸福を得られるだけです】  ………。MY ROADはまだまだ人間を理解しきれていないのか、たまにこうして“心無い”事を言う。わたしは芽生えかけた友愛を捨て去り、執筆活動に専念した。  絶対に、AIの計算結果を覆してやる!
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