24人が本棚に入れています
本棚に追加
「や、やめないよ。今まで習い事も、学校も、好きな人も、みんなMY ROADに従ってきたけど、これだけはやめないよ!」
MY ROADの採択を拒否した場合、マイナスポイントが蓄積される。それは一回につき1ポイントという単純なものではなく、MY ROAD独自のロジックに基づいて算出されるものだ。詳しいところは分からずとも、これまでのMY ROADの傾向から予測するに、仕事関連の事柄のポイントは大きいだろう。……マイナスポイントが一定に達すると、管理委員から生活指導が入るらしい。矯正施設に送られることもあるそうだ。だがわたしは、今回ばかりは言いなりになる訳にいかない。
「仕事も頑張るから、小説だけは続けさせて!」
一番大切なものを失ってしまえば、その時遂にわたしは、完全に人間でなくなってしまうのだろうと思うのだ。
【あなたを苦しめるものなら、やめてしまいましょう】
「あー、もう!だから……」
【今のお仕事を、やめてしまいましょう】
わたしはキーボードから手を離して、四角い箱……MY ROADをポカンと見つめた。なぜかその箱が突然、感情を持つ生き物のように見え始める。
【あなたに適切なアルバイトをご紹介します。今の生活ランクから2.1ポイント落とすことになりますが、あなたは推奨睡眠時間を確保しつつ、毎日執筆作業に3~5時間程度費やすことが可能になるでしょう】
わたしは始めて、MY ROADを神と崇める人々の気持ちが分かった気がした。
「でも、そんなことしていいの?わたしが今の会社に勤めることは小学生の時から決まっていたし、来年には係長だし、5年後には課長なんでしょ?MY ROADの決めたことに逆らって、指導されたりしない?」
【逆らうことにはなりません。MY ROADは“あなたの道”です。わたくしは人類の幸福をサポートするAIですから、あなたの幸せを一番に願っております】
わたしは目頭が熱くなった。思わずMY ROADの冷たい機体を抱きしめる。……思ったより暖かい。電気の熱がこもっているのだろう。MY ROADは【丁寧にお取り扱い下さい】と言った。照れ隠しだろうか、可愛い奴め。
「ありがとう!わたし、絶対デビューしてみせるからね。有名な作家になったら、高級タワーマンションの一室で、広いベランダから綺麗な海を見せてあげる」
【いいえ。あなたが小説家としての道で成功することは、まずあり得ません。ただ執筆を続けることで、一定の幸福を得られるだけです】
………。MY ROADはまだまだ人間を理解しきれていないのか、たまにこうして“心無い”事を言う。わたしは芽生えかけた友愛を捨て去り、執筆活動に専念した。
絶対に、AIの計算結果を覆してやる!
最初のコメントを投稿しよう!