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 一瞬だけ、吉野の肩がぴくりと揺れた気がした。 「勝手にしろと言いましたよね? だから、彼女ヅラしてるんです」 「だからなんで?」 「そんなの、あたしが前田くんのことを好きだからですよ」 「意味が分からん」  唇を尖らせて反論する俺に、眉間に皺を寄せた吉野が困ったように笑った。 「高校入学してすぐ、一番最初に挨拶したの覚えてますか? あの時あたし、だいぶ勇気振り絞ったんです。前田くんがあまりに変わっていたから。あたしにはない明るさを持っていて、見た目不良だけど友達が多くて、近寄りがたいけど優しくて、周りを気にせずに自由な前田くんのことを、あたしはずっと気が付いたら毎日目で追うようになってしまっていたんです。それだけじゃ足りなくなって、頑張って声かけて、迷惑承知でお弁当作って、もう、これがあたしの精一杯です」  今日もまた、レースのハンカチに包まれた弁当を差し出される。それがもう今や当たり前で。迷惑だなんて思ってはいない。  それよりも。 「あたし、前田くんのことどこまでも追いかけます。ゴールがあるのかはわかりませんが、それでも、追い続けますから。だから、もう、悲しい顔、しないでください」 「…………え?」   さっきから、やたらと吉野の言葉に何か引っ掛かる。 ーー前田くんがあまりに変わっていたからーー ーーだから、もう、悲しい顔、しないでくださいーー  それって、どう言う意味だ?
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