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夢の中で必死に追いかけて追いかけて。ようやく追いついたと思ったら、その腕は掴めることなく、瞬い光の向こう側へと吸い込まれるように消えていってしまうんだ。
そんな夢を、最近よく見る。
「疲れてんねー」
「まじ、何をそんなに追われてんの?」
「もうちょい肩の力抜いて楽に生きたら?」
昼休みの屋上。
俺はいつものメンバーで弁当を囲む。淡いピンク色にレースの施された、大判のハンカチの結び目を解くと、これまた濃いピンク色のお弁当箱が中から現れた。当たり前の様に蓋を開ければ、てろっと艶やかな卵に包まれたオムライスの上に、ハムのハート。
「今日も愛されてんねー」
「マジで羨ましー」
横目で見ながら、常田とヤッチがゼロに等しい感情を述べながら鼻で笑う。
「……おまえら感情置き去りだな?」
ため息を吐き出して、「いただきます」と手を合わせる。こんだけ愛情溢れた弁当を広げていてもその反応なのは、これが今日に限ったことではなくて、毎日だからだ。
「まさかでも、吉野がそーいうタイプの女子だったとは意外だよな」
「ほんと、学年委員長で真面目眼鏡女子。先生からも一目置かれてる吉野が、まさか学年一不良の朔太郎が好きとか、意味がわかんねぇ」
「俺もわかんねぇし」
今日も派手な弁当の中には凝ったおかずが並んでいて、見た目だけでもお腹いっぱいになる。穴の中に枝豆の入ったちくわのひよこや、定番タコウインナー、ハムの花、卵焼きはどうやったらこうなるのか、いつもハート型に入れられている。そして、見た目だけではなく毎日そのどれもがすごく美味い。
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