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特に夢はない、日常
夕暮れ前の教室。
白いカーテンが踊るように揺れている。
風が気持ちいい。
本棚から手にした一冊は、「道にまつわるあれこれ」というジュニア向けの本。
その中に「桑田ロード」のページがあった。
読売巨人軍当時の投手桑田真澄が、肘の手術後、リハビリに読売グランドの外野ポール間のフェンス脇を毎日走って、踏まれ続けた芝はいつしか一本の道になり、桑田ロードと呼ばれた伝説の道。
黙々と走る桑田選手と細い道の写真が掲載されていた。
リハビリが終わり走ることがなくなった道は、やがてまた芝草で覆われていったのだろう。
その道を辿った選手は居たのだろうか。
ぼんやりそんなことを考えていると、廊下をパタパタ走る音がして、男の子が入って来た。
近所に住む小学3年生のレオン君だ。一番元気が良い。
「こんにちは」
「いっちばーん。リョウちゃん先生ぇ。何読んでるのぉ?」
「ん?道の本」
「この前、トシ君が読んでた本じゃん。ねぇ、まだ誰も来ないからさ、サッカーしようよ」
「OK。んー15分だけだよ」
放課後児童クラブのバイト。
先輩から引き継いで1年半になる。
幼稚園に隣接されていて、以前は園舎に使われていたという平屋建ての古い建物。
生徒は卒園生で二学年ずつ3クラスに分けて預かっている。社員3人のバイト4人。時々幼稚園の先生が顔を出すこともある。
受け持ちのクラスはローテーション。
児童の安全だけが要注意の他は、勉強や宿題を見たり、一緒に遊んだりとバイトの俺はそれ程大変ではない。時給もいいし、案外楽しい。居酒屋より全然いい。
毎日来る子もいれば、塾や稽古事がない日に来る子も居るし、送迎の子も居たりと、1人1人のスケジュール管理や連絡で、社員はまぁまぁ大変かもだ。
そろそろ就活に取り掛からねば…のこの頃。
「リョウ君、うちに来てくれてもいいよ」
などと言われて、笑って誤魔化している。
1.2年が春。2.3年が夏、5.6年が秋クラスと呼ばれていて、冬は事務所だと。
冬のクラスに入るのはどうも…なぁ。
白いカーテンは心地良さそうにまだ踊っていた。
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