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夢を見る
何かから逃げるように、全速力で走って来た。
立て看板に手を掛けると、そこには、
「昨日を越えて、明日に向かって歩く今日」
と書かれていた。
それは、大学への通学路の途中にある寺の門前にある看板だった。
「スマホを捨てて、空を仰ぎ見る」とか、
「優しい気持ちはいつも持っている」とか、
「立ち止まって深呼吸」とか、
見るともなく見る度に違うひと言が書かれていた。
確か今朝も目にして来たが、此処は寺の前でも通学路でもなさそうだ。
振り返っても、何処から走って来たのか、辺りは只々白く、遥か彼方に青い線が見える。
水平線か、地平線か、
来た道も無ければ、行く道もないではないか。
「昨日はどっちで明日はどっちなんだよ」
看板に向かって尋ねてみたけれど、音もない白い世界は風に揺れるカーテンのように、ゆらゆらと俺の声さえ包み込んで行った。
あの真横に一本引かれた青い線を目指して歩けばいいのか?
青い線の向こうには何がある?
何キロ?何十キロ?何百キロ先?
何万キロ先かも。
いや、其処を目標に歩いて正解か?
辿り着いたと思ったら、断崖絶壁の地の果てだったりするかもだぞ。
そもそも…
道もないのに…。
ああ、そうだ。
青々とした芝草が敷き詰められた外野には道はなかった。
桑田はどれほど走ったのだろう。
只管に自分を信じる強靭な忍耐力。
600日余ののち、復帰のマウンドに跪き野球の神様に感謝する桑田の映像が頭の中に流れた。
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