夢から醒めて、夢を想う

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夢から醒めて、夢を想う

 空気を一つ飲み込んで、一歩踏み出そうとした時、音もなく白いカーテンが千切れて、花びらのように舞い始めた。 花吹雪…。 一枚一枚、降って来る。 掴もうとして手を伸ばすと、白い花びらから声が零れて来た。 「お…〜い。リ…ョウ…」 「…」 「リョォちゃんっ、寝てんの?」 顔を覆う白い練習帽が取られて、ユウキの顔が覗き込む。 「ん…おっ」 「ライン引くの手伝って」 「ん、あーなんだ…寝てたワ」 白い世界は一瞬で鮮やかな色に染まって行く。 緑の木陰。木漏れ陽が揺れる。 グランドは水が撒かれて黒く光っていた。 白いラインが、真っ直ぐに引かれて行くのを想像する。 真っ直ぐ…なんてことはないな。 ぐるぐると迷いながら、立ち止まりながら、俺らしい道を創って行く。 何処かを、何かを目指して。 野球の神様にお目に掛かることはないと思うけど。 いつか… 一筋の道の先に真っ新なマウンドがあった桑田ロードのように。 「何?何ニヤニヤしてんだよ」 「何でもなーい。今日はいい球が投げられそうな気がする」 「それ、先週も言ってたじゃん」 「桑田降臨」 「は?」 「昨日を越えて、明日に向かって歩く今日。ってこと」 「何だそれ」 ユウキの日焼けした顔に白い歯が零れた。
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