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「知るかそんなもん! 俺だって自分が電柱にぶつかってから記憶がないよ!」
「お前もかよ!」
彼はひどく怒っていたので、俺は思わず補足した。
「しょうがないだろ。こっちだって必死だったんだから……そもそもお前が逃げるからこうなってるんだぞ? 俺が追いかけたとしても、そうやってちゃんと説明すればいいじゃん? 追いかけて逃げるなんてやましいことがあるからだろ?」
すると、彼は勢いよく首を振った。
「いやいや、あんなに勢いよく追いかけてこられたら普通逃げますよ?」
俺は負けじと付け加える。
「"くそっ!"とか言ってたじゃん、何あれ?」
彼は気まずそうに答えた。
「気付いたら口がそういう形になってたんですよ……追い詰められると理由はどうあれ、人間"くそっ!"って言っちゃうんですよ、おそらく」
「ほんとか、それ?」
疑わしい。でもいまは置いておこう。
「まあ、いい。じゃあさ、まずそのバッグの中身見せて。そうしたらお互いなんか思い出すだろうから」
いまどういう状況なのか、俺はそれが知りたい。なので手始めに、彼の持っているバッグの中身からヒントを得ようとした。
「これですか? ちょっと待ってください」
彼がバッグの中を探る。
バッグの中身は現金か、それとも宝石か?
無造作に突っ込んだ彼の右手が、何かを掴んで日の光に当たる。
草。
いま俺は、決して笑ったわけではない。
バッグの中から出てきたもの……緑で細長い植物……そう、草だった。
「えっと? 何これ?」
「さぁ……」
尋ねてみたが、彼も首を傾げている。
そこで、バッグから出てきたそれを、改めて観察してみる。強いて言えば、草全体が紫色がかっていたが、やっぱり庭とかに生えているあいつにしか見えない。
「お前なに? ボランティアさん? 草取りでもしてたのか?」
しかし、黒装束の彼は何も思い出せない様子だった。
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