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* * *
「そこまでだ! 観念しろ!」
俺は逃げ場のない彼に言い放つ。
「ここまで逃げてきたのは敵ながら天晴れだ。けどな、お前ももうこれで終わりだ!」
村田さんは、ここで苦悶の表情を浮かべる。
「くそっ! なんて足の速い警官だ!」
俺は満面の笑みを浮かべた。
今度こそトチらない。
「はははっ、足の速さの秘密はこれさ!」
そう言って、懐から例のドリンクを取り出した。それを見て、彼は目を見開いた。
「それってまさか! この植物由来の!」
彼は持っていた黒いバッグの中から、例の草を一掴みした。たしか南米で採取できる植物で、カタカナ14文字くらい、そのうち半分が半濁音で構成されていたが、正式名称は忘れてしまった。もっとも、テレビの画面上では、この植物の正式名称がテロップ表示されているはずだ。
俺たちふたりはカメラ目線で叫ぶ。
「「漲る紫の力! 元気が出るドリンク!」」
俺はカメラに向けて商品を突き出し、しばし静止した。
「はい! おっけーです!」
監督の小林さんの掛け声により、CM撮影は無事に終了した。村田さんはじめ、スタッフのみんなも満足そうだ。
だがしかし、俺は敢えて問い掛けたい。
警察官が不審者を追いかけるまでは分かる。でも、不審者を追い詰めたキーアイテムがドリンクで、そのドリンクの元になる植物を不審者が持っていて、最後には仲良くその不審者と一緒にドリンクの宣伝している。
CMなのは分かる。分かってはいる。
でも、敢えて言わせてほしい。
……結局どういう状況?
謎は深まるばかりだった。
(了)
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