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〝具合が悪そうだったからさすってあげただけ”
と彼が必死で訴え、しかも
〝ルナを誰よりも愛してる”と囁かれたらもう許す他はない。
代わりにその日はリョージと二人で一晩中ティナを折檻した。
だがティナがこんな押入れに閉じ込められ、食事も満足に与えてもらえないのはその罰というわけではない。物心ついた頃から、ティナの世界のほとんどはこの押入れの薄闇の中だった。
「ティナぁ……ごめんなさいは?」
「……ご……め、ケホッ……ゲボッ! グ……」
「やだぁ、きったなーい。吐いたとこ、ちゃんと自分でキレイにしておきなさいよぉ?」
「……」
言われるまま、ズルズルと這い出るように押入れから移動し、ティナは雑巾のある洗面所へと向かう。そしてふいに振り返ると、母親とその周囲をまた虚ろに見つめた。
「何よ、その目。わかったわよ、掃除したらほら、テーブルの上にご飯あるから。食べれば?」
ルナが指さしたのは、さっき彼女が食べていたフライドチキンの残骸。それは筋のような肉がへばりついているだけの骨だった。もちろん、パンも飲み物も無い。
「ケーキも。残り食べていいわよぉ」
それも残っているのはホイップクリームが付いたフィルム。その上に乗っているデザート用の二股フォークにもクリームが付着している。
「ティナぁ、あたし仕事の時間まで寝るから。夜八時になったら起こしてぇ」
最近、店の新人キャスト『桜子』がやけに急上昇で、ベテランのルナを蹴落とそうと躍起になっている。それはすれ違うたびにルナを睨みつけてくる熱い視線でありありとわかるのだが。
(あーんな乳デカってだけでテクニックもなんもないブス女、眼中ないっての)
「リョージくんも今日は来られないって言ってたから、今夜はアフター頑張っちゃおうかなぁ……」
独り言をつぶやいて、ルナはベッドに身を投げ出した。
(あ……ネイル、直してないじゃん……)
そう思いながら急激な眠気に襲われてルナはベッドに沈み込む。
しばらくの後、ティナが震える手でテーブルの上のフォークを取り上げ、そっと舐った──。
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