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そして、そのまま2位でゴール。結局1位には届かなかった。ゴール後、息を整えていると松葉杖をついた渡辺先輩がやって来た。
「2位入賞おめでとう。帰宅部とは思えない好成績だな。お陰で陸上競技部門は勝ち越せそうだよ」
「でも、1位にはなれませんでした。すみません、練習メニューとか細かく作ってくれたのに」
うなだれる俺の肩に渡辺先輩の手が置かれた。
「もともと中距離は勝てないと思ってた。1人どうしたってレベルの違う奴がいるから。目標は2位だったんだよ。最後の1周は、トップに立ったときの走り方してた。自分のペース守って、フォームも崩さず後ろに追いつかせなかった。練習の成果はちゃんと出てたよ。……正直俺が出ても勝てなかったと思う。悔しいけど」
渡辺先輩の顔を見上げると、スッキリとした顔をして笑っていた。
「改めて謝らせてほしい。2年前、優勝するのは沢村だった。俺は卑怯な方法で優勝だけじゃなく陸上自体を取り上げてしまった。今更だけど本当に申し訳なかった。……なあ、もう1回やらないか、陸上。お前なら全国目指せるよ」
俺は、陸上をやめることになんの未練もなかった。一度恐怖を感じた以上、精神面の弱さが今後致命的になるのは目に見えているから。
……だけど、今回たくさんの人に支えられて走れた。陸上って、中長距離走は特に、自分との孤独な戦いだと思ってた。だけどそれだけじゃなくて、仲間の存在が力になることを体感した。それに、今回追いかけたい相手ができた。あの人に勝ってみたい。
フィジカルを渡辺先輩が、メンタルを美帆が鍛えてくれるなら、また走れるかもしれない。俺は明日も走る決意を胸に、渡辺先輩と握手をするべく手を差し出した。
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