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第1話 『霊能力者』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第1話
『霊能力者』
「はぁぁ〜」
やつれたサラリーマンはフラフラと階段を登りきり、ビルの三階へたどり着く。
一番奥にある扉には、ボールペンで『霊に関する相談はこちら』と書かれた紙が貼り付けられている。
その紙の前で大きくため息を吐くと、
「すみませ〜ん、あの〜誰かいますか〜?」
声に反応し、こちらに駆け寄ってくる足音。
「……はーい」
扉を開くと、奥の部屋からマグカップを持った女性が顔を出した。
「あ、お客さん?」
透き通るような白髪の髪に藍色の目。体格はヒョロッと筋肉があるようには見えない。しかし、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
女性に見惚れていたサラリーマンは女性の声を聞き、我に帰った。
「……あの〜霊の相談ってできます?」
サラリーマンは恐る恐る聞くと、女性は蹲り身体を震わせる。
「だ、大丈夫ですか!?」
サラリーマンは心配して女性の元に駆け寄る。すると女性は勢いよく立ち上がり、サラリーマンの肩をがっちりと掴む。
そして目を輝かせて
「依頼ですか!? 依頼ですよね!!」
サラリーマンのことを思いっきり揺らす。痩せ細っているサラリーマンの身体は、ダルマのように激しく揺れた。
「は、はぃ〜、依頼ですぅ〜〜!?」
女性はサラリーマンから手を離すと、ガッツポーズをして、歓喜の声を上げた。
「よっしゃ〜!! 久しぶりの依頼だーーーー!!!!」
激しく喜ぶ女性。その様子を見ながらサラリーマンは、来る場所を間違えたと理解した。
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サラリーマンを奥にある客室に案内する。簡素なテーブルと茶菓子が置かれた客室だ。
私はお茶をテーブルに置く。
「あ、どうも…………」
サラリーマンは一礼してお茶を受け取った。
私はサラリーマンの座る席とは向かいにある椅子に座り、早速本題を切り出した。
「それで花田 克巳さん……霊に取り憑かれているということですが、どういったことがあるのですか……?」
依頼人は花田 克巳(はなだ かつま)。32歳。既婚者であり、小さな娘もいる。
「……はい、半年ほど前の話なのですが…………」
そう言うと話を始めた。
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半年前、仕事の取引である廃墟のビルに行くことになったんです。
そのビルを撤去して新たな工場を作るということで、撤去作業の状態を見に行ったんですけど、作業員の様子がおかしくて…………。
そこの作業員は目の下には隈があり、痩せ細っていて、覇気のない感じでした。
作業もなかなか進んでいないようだったんです。そこで問いただしたんですよ。
このままでは納期に間に合わないぞっと。
そしたら昼間なのに太陽が雲に隠れて、薄暗くなったなっと思ったら、作業員の人たちが一斉に睨んできたんですよ。
そしてブツブツと呟くんです。
「許さない……許さないって…………」
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話を聞いた私の身体は震えていた。
「あの〜、ビビってます?」
「ビビってません」
「ビビってますよね。震えてますよ」
「む、武者震いです。続けてください……」
サラリーマンは話を続ける。
「それから工事が続くにつれて、身体が重くなったり、上司が怪我したり、体重が増えたりしてるんです。これって取り憑かれてますよね!?」
サラリーマンはテーブルに手をつくと、身を乗り出すようにして同意を求めてきた。
私はお茶の入ったマグカップを持って立ち上がる。そして窓のほうへ向かうと、ブラインドを指で広げて外を見た。
「はい、それは取り憑かれてますよ」
サラリーマンは身体を震わせる。
「ど、どうしたら良いんでしょうか……」
心配そうに訊ねてくるサラリーマン。私は彼の方を向くと、
「お任せください。私がその霊を祓って差し上げましょう」
勢いよく振り向き、マグカップに入っているお茶をグビっと飲み干した。
「……ごほぉごほぉ」
「大丈夫ですか……?」
私はサラリーマンに手伝ってもらい、テーブルを部屋の端に寄せる。そして真ん中に椅子を置き、そこに座ってもらった。
「……これから除霊が始まるんですね」
サラリーマンは緊張している様子。
「力を抜いてください。こういうのはリラックスが大事ですから」
「り、リラックス……ですか」
サラリーマンは深呼吸をしようと口を大きく開けて、息を吸う。
私はその隙を見逃さずに、サラリーマンの首にチョップを食らわせる。大きく息を吸い込んでいたサラリーマンは、首を押さえながら咽せた。
「はぁはぁ、何するんですか」
「除霊ですよ。除霊」
「首にチョップする除霊がどこにあるんですか!?」
私は腕を組むと、真剣な眼差しでサラリーマンの目を見る。
「良いですか。霊はあなたの身体に住み着いているんです。ここが居心地が悪い、そう思わせることで霊はどっかに行くんですよ」
「本当なんですか!? 怪しいんですけど!?」
抵抗するサラリーマン。だが、私はロッカーからロープを取り出すと、それで縛って動きを封じる。
そして私はサラリーマンの頬を往復ビンタした。
「うおおおおぉぉぉ!!」
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
室内にパチンパチンと鈍い音が響き、サラリーマンのカサカサの頬は赤く腫れ上がる。
「こ、これで本当に祓えるんですか!?」
「祓えますよ! ほら、次行きますよ!」
それから除霊は三十分と続いて、ついに除霊が終了した。
「……どうですか? 除霊を終えた感想は?」
「めっちゃ痛いです…………」
除霊が終わる頃にはサラリーマンの頬っぺたは真っ赤になっていた。
私は真剣な顔でサラリーマンの目を見る。
「それが除霊です。決して暴力ではありません」
「……」
「……除霊は普通の人間には感じられません。米○玄師がノンフィクションを口パクして、それをラジオで聞いてるくらい感じられません」
「例えが分かりません」
「花粉症の人がスーパーの魚コーナーで生臭さを感じるかどうかのレベルです」
「それは人によると思います」
「つまりはそういうことです。人によります」
「だったら最初からそう言ってください!!」
サラリーマンは肩を回してみる。
「でも、久しぶりに身体を動かしたからか、なんだか軽くなった気もします」
それを聞いた私はサラリーマンに笑顔を向ける。
「では除霊は終わったので料金は……」
私は電卓を取り出すと、数字を打ち込んでいく。そしてそこに表示された金額をサラリーマンに見せた。
「これくらいになります」
「…………ほ、本当にこれだけなんですか」
「はい! これだけです!」
サラリーマンは財布を取り出すとそこからお金を取り出して、私に渡した。
「今日はありがとうございました。……次があったらもう少し優しい除霊でお願いします……」
「できる限り」
支払いを終えたサラリーマンは帰っていった。
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