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第14話 『呪いのダンベル』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第14話
『呪いのダンベル』
依頼人が帰って私達はテーブルに置かれたダンベルを囲んで話し合いをしていた。
「それでこのダンベルの呪いを解くためには、根本から解決するしかないって言ってたよね。それってどうしたら良いの?」
私は呪いの解き方について知っていそうなリエに聞く。リエはテーブルの肘を乗せ、テーブルに身を乗り出す。
「このダンベルは呪い発動の装置に過ぎません。このダンベルをどうにかしたからといって、呪いを解くことはできない」
「じゃあ、どうすれば?」
「このダンベルの持ち主を探します」
「ダンベルの持ち主?」
私は首を傾げる。楓ちゃんはテーブルの上で丸くなる猫を撫でながら会話に参加する。
「ダンベルの持ち主が呪いをかけている本人ってこと?」
「はい、楓さんの言う通りです。だから持ち主を探して、呪いをかけた理由を調査、それを解決させるんです!」
こうして私達はダンベルの持ち主を探すことになった。まずはダンベルの置かれていたジムに行き、誰が持ってきたのかを調査する。
私はダンベルをバックに入れて持ち運ぼうとするが……。
「持ち上がらない……」
「十キロが二本で二十キロありますからね……」
私とリエは重たいバックを見つめて、どうしようかと迷っていると、トイレに行っていた楓ちゃんが戻ってきた。
「あれ、どうしたんですか? 持てないなら僕が持ちますね」
楓ちゃんはバックを片手で軽々と持ち上げる。
「では行きましょ、師匠が玄関で待ってますよ」
「……は、はい」
依頼人に教えてもらったジムに着いて、そこのトレーナーにダンベルについて話を聞く。
「気づいたらあったんですよね。持ち主はわからなくって……」
働いているトレーナーにダンベルに聞いても、誰が持ってきたのか分からなかった。
しかし、トレーナーに聴き込みをしている中、一人のジムに通っている女性がジムの中に入ってくる。
女性はトレーナーに挨拶をして奥へと進もうとしていたが、私たちが持ってきたダンベルを見つけて足を止めた。
「そのダンベルって、もしかして」
「え、知ってるんですか?」
「え、まぁ、もしかしたらまたそのダンベル何かあったの?」
その女性はダンベルについて何か知っている様子だった。私達はその女性に少しだけ時間をもらい、ジムのロビーにあるベンチで話を聞く。
「そのダンベル。前に通ってたジムでもあったの。その時も呪いだって騒ぎになって、私は不気味だったから近づきもしなかったわ」
「そのジムはどこなんですか?」
「潰れたわ。そのダンベルの呪いでね」
「え!?」
女性の話を聞いていた私達は驚いて動きを止める。
「ダンベルを使った会員が次々と筋力をなくしてね。運動どころか、最終的には呼吸も出来なくなって。それで評判が悪くなってなくなっちゃったの」
筋肉が死滅する。その呪いの被害者がもう他にも出ていたとは……。しかし、呪いの力を舐めていた、死者が出るほどの呪いだったとは。
「レイさん、これは早く解決した方が良いですよ。これ以上呪いによる被害が増えるのは危険です」
ベンチの後ろの壁に半分埋まった状態のリエが私に伝える。
リエの言う通り、これは早く解決しないと被害が増えてしまう。
「このダンベルの持ち主が誰だか分かりませんか?」
私が聞くと女性は申し訳なさそうな表情で答える。
「ごめんなさい。私には分からないわ。でも」
そう言うと女性はリュックを開いて中からメモ帳を取り出す。そしてそのメモ帳に数字を書くと、
「当日そのジムのオーナーをやっていた人の連絡先。何度もナンパされて、嫌々メモさせられたんだけど、まさかこれが役に立つ時があるなんてね」
女性はメモ帳からその連絡先を破ると、それを私に渡してジムの中へと戻っていった。
「レイ、連絡してみるのか?」
楓ちゃんに抱っこされている黒猫が私の持ったメモを持って聞く。
「やるしかないでしょ」
ジムを出てすぐにある自販機の前で私達は早速貰ったメモを頼りに連絡をしてみることにした。
携帯を取り出し私はその電話番号を打ち込む。私がメモと携帯を交互に見て打ち込んでいる中、楓ちゃんはズボンの後ろにあるポケットから財布を取り出して、自販機を見つめていた。
「師匠、リエちゃん、何か飲みたいものある?」
「ミーちゃんに人間の飲み物を飲ますな。持ってきたミーちゃん用の水を飲ませてくれ」
「私は今は要らないです」
リエは断ると楓ちゃんのバックの中から黒猫用の水を取り出して、黒猫に水を飲ませる。楓ちゃんはスポーツドリンクを買ってそれを飲んでいた。
「ねぇ、私だけ仕事してるの寂しいんだけど」
「電話だと一人でするしかないだろ」
「それはそうだけど」
黒猫に現実を突きつけられ、電話番号を打ち込み終えた私は携帯を耳に当てる。
日差しの照らす中で生暖かい携帯が耳にあたり気持ち悪いが、それでも我慢してしばらく待つと電話が繋がった。
「はい、黒淵さんでしょうか? …………はい、はい。あ、はい。えっとですね、呪いのダンベルの件でお話を聞きたくて、お時間いただけますでしょうか………………………はい、ありがとうございます。では後ほど」
電話を終えた私は楓ちゃんの買った冷たいスポーツドリンクに手を当てて涼んでいるリエと黒猫。そしてその二人を見守っている楓ちゃんに報告した。
「これから時間があるから直接会って話してくれるって、これで呪いのダンベルの所有者に近づけるかも!」
呪いのダンベルのあったジムの元オーナーに連絡を取り、直接会って話すことができることになった私達は、待ち合わせ場所に指定された駅前の喫茶店にたどり着いた。
「ここにその人がいるんですか?」
リエは私の背後を浮遊しながら質問してくる。
「そういうことになってるけど。もう着いてるのかな」
黒猫には楓ちゃんが持ってきたバックの中に隠れてもらい、私達は喫茶店に入る。
四人用のテーブル席が10席ほどあり、店内は半分の席が埋まっていた。
「二名様ですか?」
「あ、そうなんですけど、待ち合わせをしてて」
「待ち合わせですか。二名ほど、お待ちしているお客様がいるのですが」
「どちらですか?」
店員は手前にある入り口付近のテーブル席と、奥にトイレに近いテーブル席に待ち合わせの客がいることを教えてくれた。
手前の席には金髪のスーツを着た男性がパンケーキを食べている。奥の席ではうさ耳のカチューシャを付けた女性がコーヒーを飲んでいた。
電話の時の声は女性の声だったため、私は奥の席に行こうとしたのだが、その時に手前の席の男性が店員を呼ぶ。
「すみませーん。注文したいんですが」
その声はまるで女性のような声。そしてそのままの声で注文を続ける。
これではどちらが電話の相手だったか、分からない。
「レイさん、わからないんだったら電話してみたら良いんじゃないですか?」
私が迷っていると後ろで楓ちゃんがそう提案してくれた。それを聞いて私は携帯電話を取り出す。
そして履歴を開いた時、喫茶店の扉が開き新しいお客さんが入ってきた。
パイナップルのような髪型をした男性は、手前の席にいる金髪の男性の元へ躊躇することなく近づき、向かいの席に座った。
どうやら手前にいた男性は違うようだ。
そうなると、奥にいる女性が電話の相手ということになる。しかし、いざその女性に注目してみるとかなり変わった格好をしている。
うさ耳のカチューシャにメイド服を着こなし、まるで漫画の世界から飛び出してきたかのような格好をしている。
あのような格好をしている人が、元ジムの経営者だとも考えにくい。きっと別の待ち合わせをしている人だろう。
私達は先に着いてしまった、そういうことなのだろう。と私は携帯を閉じる。
私が携帯を閉じると、奥にいる女性は携帯を取り出して何か操作を始める。
その女性が携帯を触ると同時に、私の携帯に電話がかかってきた。
「あ、はい、…………待ち合わせの場所に着きました………………手を振ってる……?」
奥にいるうさ耳をつけた女性がこちらに向かって手を振っていた。
元ジムのオーナーと合流した私達。席に着くと女性は早速自己紹介を始めた。
「私は黒淵 モエカ。モエちゃんって呼んでね」
黒淵さんは顔の前に手でハートを作りながら紹介を終えた。
「私は霊宮寺 寒霧。それでこっちが坂本 楓ちゃ……君よ」
リエは見えていないし、黒猫は隠れているため自己紹介は省く。
私達が紹介を終えると、黒淵さんはテーブルに肘をつき、手の甲に顎を乗せる。
「へぇ〜、なかなか可愛いわね」
そして私達の方を見てそう言った。
「ですよね。でも、楓ちゃんは男な……ん…………」
「違うわよ。あなたよ」
黒淵さんは突然身を乗り出すと、私の手を握りしめる。
「え……?」
「あなた、もっと可愛くなれるわよ」
黒淵さんは私の目を見てそんなことを言ってくる。楓ちゃんのことを言っているのかと思ったが、もしかして私のことなのだろうか。
黒淵さんは目を輝かせて、私の腕を強く握りしめる。
「鍛えれば絶対良い筋肉をつけられる!!」
「へぇ? 筋肉?」
私が混乱している中、黒淵さんはテーブルに腹を乗せて乗り出しながら、私の身体を触り出した。
「良いわ良いわ、すごく良い!! 筋肉付けないのはもったいないわよ!」
「ちょ、なんなんですか。黒淵さん」
私は黒淵さんの腕を振り払う。すると、黒淵さんは頬を膨らませて不機嫌そうな顔をする。
「モエちゃんって呼んでって言ったわよね。レイちゃん」
「も、モエちゃん……なんなんですか、突然」
「だから〜、筋肉をね」
機嫌を直した黒淵さんは再びテーブルに身を乗り出して、私に触ってこようとする。嫌がる私を守るように、楓ちゃんが手を横に出す。
「モエ・チャンさん、やめてください。レイさんが嫌がってます」
しかし、黒淵さんはその腕を叩いて、楓ちゃんを睨んだ。
「私、男には興味ないの。あとちゃん付けやめてくれる」
「は、はい……」
楓ちゃんは速攻で負けた。隣で落ち込んでいる楓ちゃんを無視して、黒淵さんは私の身体に手を伸ばす。
私はメニュー表を盾にして黒淵さんから身を守り、本題に入った。
「モエちゃん、あなた呪いのダンベルを知ってるんですよね。教えてください、その持ち主は誰なんですか?」
呪いのダンベル。その単語が出た途端、黒淵さんの手が止まる。
黒淵さんは席に座り直して話を聞く体制になる。
「そうね。そういえば、呪いのダンベルについて話があるってことだったわね。あなたの体を見て興奮して忘れてたわ…………」
「興奮しないでください」
私は椅子の奥まで座り、黒淵さんから出来るだけ距離を取って会話を始める。
「呪いのダンベルは誰が持ってきたんですか?」
私が早速質問すると、黒淵さんは目を細めてつまらなそうに答えた。
「早いわね。本題に入るのが、でも良いわ答えてあげる。ダンベルの持ち主は夏目よ」
「夏目?」
私と楓ちゃんは首を傾げる。私達の後ろにいるリエも首を傾げた。
「私の経営するジムにあのダンベルがやってきたのは、今から丁度一年ほど前だった。それももうすでにいくつかの人間を伝い、呪いをばら撒いてきた後」
「じゃあ、あなたのジムにその夏目さんが来ていたわけではないんですか」
「ええ、そうよ。私がジムで働く前からその呪いはあったみたい。このダンベルはナドキエ製の初期モデルなの。だからこのダンベルが主流だった頃を考えれば、約十年前に呪いのダンベルがあったとこになる」
十年前。そんな前からこの呪いのダンベルが存在していたとは……。しかし、黒淵さんの話を聞いて疑問が浮かぶ。
「なぜ、持ち主が夏目さんだと分かったんですか?」
黒淵さんは店内の誰かを見る、目線で何かを送る。私達も黒淵さんの見た方を見るが、誰を見ていたのかは分からなかった。
黒淵さんは私の方に向き直すと話を続ける。
「呪いのダンベルがジムに来て、問題が起きて私もこの件について調べ出したわ。まぁ、持ち主がわかったときには、ジムは潰れて、ダンベルは消えていたけど……」
黒淵さんはポケットの中から一枚の紙を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
その紙には見慣れない場所の住所が書かれている。
「ここが夏目の家よ。夏目自身は何年も前に亡くなっているみたいだけど、ここに呪いを解くヒントがあるかもしれないわ」
黒淵さんはその紙を私達に渡すと、立ち上がる。
「私が知っているのはここまでよ。それじゃ、私はこれで……」
黒淵さんは自身の会計分の小銭をテーブルに置いて店の入り口へと向かう。
私達は黒淵さんに渡された住所の書かれた紙を見て、、どこなのか確認しようと手元に待ってくる。
「あ、そうだ!!」
紙を目の前に持ってきたはずが、突然横から黒淵さんの顔が現れて塞いできた。
「うわぉ!? 帰ったんじゃ?」
「その前に〜!」
黒淵さんは携帯電話を取り出すと、
「レイちゃん、あなたの連絡先教えてよ〜」
黒淵さんも帰り、ついでに喫茶店で昼食を済ませた私達は、会計を終えて店を出ようとする。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
店の入り口に行き、扉に手を伸ばしたとき。私の目線をコインが横切る。
突然コインが飛んできて驚いた私は、慌てながらも咄嗟にキャッチした。
「なにこれ? 五円玉?」
私が飛んできたコインを不思議そうに眺めていると、入り口の近くの席から声をかけられる。
「いや〜すまないすまない。そこの麗しき白髪のマドモアゼル、コインが飛んでいってしまってね」
そこは待ち合わせで勘違いした他のお客さん達。喫茶店に入るときに見かけた二人と、もう一人男性が増えており、その人がコインを飛ばしてしまったようだ。
男性はコインを投げるように手招く。私がコインを投げ返すと、男性は綺麗にキャッチした。
「サンキュー!」
そして男性はコインを持ち直すと、親指で弾いて顔の高さまで飛ばしてキャッチ。それを何度も繰り返して遊んでいる。
「レイさん、早く行きましょ〜」
扉をすり抜けたリエが外から呼ぶ。男性からの目線を感じながらも、コインを返したのだしと私は店を出た。
「店の中でコイン遊びって何考えてるんでしょうね。他の客に迷惑かけて」
店を出た後、後ろで楓ちゃんが文句を言っている。
「そうね。ま、関係ないのだし、行きましょう。目指すは夏目さん家よ!」
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