第17話 『筋肉と波』

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第17話 『筋肉と波』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない? 著者:ピラフドリア 第17話 『筋肉と波』  楓ちゃんと合流した私達は、水を飲んだ後、楓ちゃんと交代して海に行こうとしていた。 「そろそろ行くよ」 「レイさん、これ膨らませてください」  リエはそう言って私に萎んだ風船のボートを渡してくる。 「えー、めんどくさい」 「お願いしますー!」  私はめんどくさがりながらもボートを受け取る。リエだけじゃなくて黒猫と私もボートなら使えるから、膨らませても損はないだろう。 「はいはい。ちょっと待ってて」  私は足で押して空気を送ることができるポンプを出して、それをボートに繋げると踏んづけて空気を送る。  リエはボートのそばで膨らむ様子をじっと待つ。 「まだかなーまだかなー」  しかし、なかなか膨らまない。ボートに全く変化がないが、疲れた私はダウンした。 「もうだめー」 「レイさーん!」  倒れた私の元にリエは駆け寄ってくる。 「レイさん。レイさん!! 大丈夫ですか?」  ぐったりしている私をリエが揺らす。 「もう無理…………」 「レイさーん!!」  私とリエがそんな茶番をしていると、楓ちゃんがポンプのところまで来て空気を入れてくれる。  そして私がやった時よりも明らかに早く膨らんでいき、ついにボートが完成した。  完成したボートを見てリエは喜ぶ。そして楓ちゃんの両手を掴んで握手をする。 「流石楓さん!! レイさんとは違いますね!!」 「私だって頑張ったのよ!!」  楓ちゃんに荷物を見張ってもらい、私とリエ、黒猫はボートを持って海へと向かった。  人混みをかき分けて海にたどり着く。ボートの上に黒猫が乗って、私とリエがボートを押して海へと入っていく。 「なんだろう、俺……偉くなった気分だ」 「あんた、ボートひっくり返して海に突き落とすよ」 「やめろー! ミーちゃんを虐めるなー!」 「そうね。ミーちゃんを巻き込むのはよくないよね……。ミーちゃん、タカヒロさんだけを攻撃する方法はないの?」  ボートを押しながら黒猫に聞くと、タカヒロさんの意思ではなく黒猫は動き出す。 「おい、何聞いて…………ミーちゃん、ねぇ、ミーちゃん!! 何する気なんだ!! ギャァァぁぁァァァァァ!!」  ボートを押して泳ぐのに必死で見れなかったが、タカヒロさんは何かをやられたらしい。  しばらく海を進み、人混みの少ないところまできた。もうビーチにいる人たちが小さく見えるぐらい泳いでいたらしい。 「結構泳いだのね……」 「レイさん、レイさん。どっちが長く潜ってられるか勝負しましょうよ!」  リエは頭につけていたゴーグルを装着して潜る準備はできている。 「リエ、あなた私に勝てると思ってるの?」 「それはこっちの台詞ですよ。負けた方は後でかき氷奢りです。ではせーっので行きますよ! じゃ、せーっと!!」 「ちょっま!?」  リエが潜りそれを追うように私も海面に顔をつける。しかし、 「ぶはぁぁっ!? 目がぁぁ!!」  リエに焦らされたことでゴーグルをつけ忘れていた私は、驚いてすぐ出てきてしまった。 「リエにやられたな」  ボートの上で様子を見ていた黒猫が、高みの見物感覚で言ってくる。 「気づいてたなら言ってよ……」 「そしたらつまんないだろ」  そんな会話をして水面で3分ほどリエが出てくるのを待つが、リエは全く浮かび上がってこない。 「リエ遅いね」 「そうだな……」  さらに5分後。それでもリエは出てこない。 「流石に遅すぎない」 「まさか……溺れたってことは……」 「あの子あれでも百年以上生きてる幽霊なのよ……そんなこと……」 「でも海には来たことないんだろ……」 「…………………リエ!!!!」  私はリエを助けに行こうと息を吸い込む。そして潜ろうとした時、水中の足が何かに掴まれる。 「キャ!!」  そして水中に引き摺り込まれる私。水の奥へと引き摺り込まれ、水面が遠くなっていく。  水面から聞こえる黒猫の声もどんどん遠ざかり、聞こえなく…………。  私は必死に泳ぎ、足を掴む何かから逃げてどうにか海面に出てきた。 「ぷは…………はぁはぁはぁ」 「おい。何やってるんだ?」 「突然足を掴まれて引き摺り込まれたのよ……もしかしてリエも…………」  私が何があったのか。状況を黒猫に説明していると、私と黒猫の間の水面に泡が出てくる。  ぷくぷくと小さな泡がいくつも出てきて、ゆっくりと黒い物体が顔を出した。 「レイさんの負けですね」  その物体の正体はリエの頭だった。口まで水の中につけて泡を作りながらドヤ顔をしているリエ。 「あんた、私がゴーグルつけ忘れてるの分かってやったでしょ」 「いや〜、これはいけるなって思ったので……」  リエは満足げな顔をしている。 「って、じゃあさっき私のことを引っ張ったのもあなたね! びっくりしたじゃない!」 「え、私そんなことしてないですよ」 「嘘つくんじゃないよ!」  私はリエの背後まで泳ぐと、リエの脇をくすぐる。リエは笑いながら抵抗する。 「本当ですって」 「じゃあ、誰がやったっていうのよ」 「そんなの知りませんよ。私ずっと水中いましたけど、何もいませんでしたしー」  リエの仕返しをした後、私達は楓ちゃんと交代するためにビーチに戻る。  ボートを持って浜辺を歩いて、パラソルのところに向かっていると、 「ん、あなた達は……」  すれ違った一人女性が私たちを見て足を止めた。  止まった女性の友達らしき女性も足を止める。 「どうしたの?」 「この人です。ユウキのネックレスを届けてくれたのは……」 「え、この人達が……」  私達のことを知っている様子の女性は、金髪の短髪に首にはネックレスをつけている。向こうは私達のことを知っているようだが、私にはこんな綺麗な女性は知らない。  もう一人の女性も黒に赤いメッシュの髪型の美人。しかし、ネックレスの女性に比べて身長が高い。  私達の女性達で向かい合っていると、海の家の方から男性の集団が走ってきた。 「姉さーん! 浮き輪買ってきました……よ……って、お前らは……」  その先頭にいたのはスキンヘッドの男。水着を着ていて前とは服装が違うが、この男はすぐに分かった。 「あなた、首無しの!」  前に首無しライダーの依頼があったときに出会った男性。コンビニの前で屯っていた暴走集団の副総長だ。  その後ろにもその時に見た暴走族の人達が何人かいる。 「こんなところで会うなんて奇遇だな」  スキンヘッドの男が話しかけてくるが、私達は女性達の後ろに身を隠す。  私達が隠れるとスキンヘッドの男達は申し訳なさそうな顔をする。その様子を見て金髪の女性が振り向いて安心させようと話しかけてくる。 「怖がらなくても良いのよ。こいつら馬鹿だけど、変なことはしないから」 「確かに黒淵さんやタカヒロさんに比べれば、変態さんではなさそう」  私はそう言って隠れるのを止める。黒猫はなんで俺が!? と顔をしているが無視する。  スキンヘッドの男達が現れて、改めて金髪の女性の顔を見ると、見覚えがあったことを思い出した。 「……ってことは、あなた。首無しのライダーの彼女!?」 「今気づいたんですか……。あの時はありがとうございました」  首につけているネックレスを握りしめる。 「あれから私、あなた達と彼のおかげで立ち直ることができたんです」 「それは良かった。…………彼も無事に成仏してましたよ」 「そうみたいですね」  金髪の女性と話を終えると、今度は黒髪の女性が頭を下げた。 「私からも礼を言わせてくれ。弟を送り出したことを感謝する」 「弟……?」  私が首を傾げると、スキンヘッドの男が解説をしてくれる。 「姉さんは兄貴の双子の姉さんなんだ。結婚して地方に行ってたんだが、浮気されて帰ってきたんだ」  スキンヘッドの男が解説を終えると、黒髪の女性はスキンヘッドの顔面を殴り飛ばす。 「余計なことは言わんでいい!!」  スキンヘッドの男は倒れて、ピクピクしている。殴り終えた黒髪の女性は向き直ると、私達の顔を見る。 「本当にあんた達には感謝してる。弟のこと。ありがとな」  黒髪の女性との話も終えると、倒されて痙攣していたスキンヘッドの男が復活して立ち上がった。 「副総長が復活した!!」 「副総長、復活はや!」  後ろの部下達が騒ぎ立てる中、副総長は鼻血を出しながら私に尋ねてくる。 「あの青髪のやろーはどうしたんだ? 見当たらないが?」 「楓ちゃんのこと? 楓ちゃんなら荷物みててもらってるけど、どうしたの?」  スキンヘッドの男は顔を赤くする。 「楓っつーのか…………いや、なんでもないんだ。ちょっと、ちょっとな、気になっただけだ」  なんだか焦っている様子の副総長。そんな焦る副総長に部下達が絡みにいく。 「どうしたんすか、副総長」 「な、なんでもねーよ」  しかし、絡みにいく部下もいるが、数人は副総長から距離を取ってひいている顔の部下もいる。  そんな中、スキンヘッドの男とその部下達の背後に、巨漢の二人組が現れる。 「パイセン、あの人って確か……」 「ああ、レイさん!! こんなところで会うなんて奇遇ですね」  次に現れたのはマッチョな二人組。この二人はダンベルの呪いにかかり、それを解くことを依頼してきたマッチョ達だ。  呪いはダンベルの持ち主だった夏目のところまで持っていき、無事に解除することができた。 「あ、呪いは大丈夫ですか?」 「問題ないとも!!」  二人のマッチョは腕を曲げ、筋肉を膨らませるとポーズを取る。  そんな二人を見て、リエは密かに拍手をする。 「なんだ、このマッチョは?」 「すげ〜筋肉だな」  二人のマッチョを見て、スキンヘッドの部下達は興味を持つ。スキンヘッドの男とマッチョの二人組に近づくと、 「俺だってェェェェ、フッん!!」  腕を曲げて筋肉を見せつける。スキンヘッドの筋肉を見た二人のマッチョは目を合わせ合うと、 「「フッん!!!!」」  筋肉を膨らませて張り合う。 「まだまだァァァァァ!!!!」  スキンヘッドの男も張り合い、その筋肉に部下達は歓声を上げる。 「おーー!! 副総長さすがっす!」 「俺達にできないことを平然とやってのけるー!」  私達と女性二人が呆れて見る中、男三人の張り合いは激化していく。  しかし、ついに力尽きてスキンヘッドの男が倒れた。 「くっ、俺はここまでか……」 「副総長ォーーーーっ!!!!」  膝をついたスキンヘッドにマッチョの先輩は手を差し伸ばす。 「なかなか良い、筋肉だったぜ」 「ふっ、テメーもな……」  先輩に手を取ってもらい、立ち上がったスキンヘッドは硬い握手を交わす。後輩と部下達はそんな二人に盛大な拍手を送った。 「な・に・こ・れ?」  先輩はスキンヘッドの男を強く握りしめると、 「君のこれからあの筋肉の星に届くような、輝かしい筋肉を目指そう!!」  そう言ってスキンヘッドの男をお姫様抱っこする。 「え?」 「さぁ、俺達と一緒に最高の筋肉を作り上げよう!!」  マッチョの二人組はスキンヘッドの男を連れて、何処かへと走っていく。 「ふ、副総長ォォーーーーっ!!??」 「副総長が拐われた!! 追うぞ、お前達!!」  スキンヘッドの男を追いかけて、部下達も走っていく。 「行っちゃった。あなた達は追わなくて良いの?」  私は二人の女性に聞くと、どーでもよさそうな顔で答えた。 「あのバカ達はホッときましょ。それよりも、あなた達、一緒にご飯でも食べない?」  黒髪の女性がそう言ってきた。
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