第2話 『屋敷の幽霊』

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第2話 『屋敷の幽霊』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない? 著者:ピラフドリア 第2話 『屋敷の幽霊』  仕事もなくて暇だった私は、夜の町を散歩していた。  何も考えずに進んでいくと、吸い込まれるようにある場所についていた。 「……思っていたより大きいのね」  そこは最近噂になっている幽霊が出ると言われる屋敷。  昔は金持ちが住んでいたらしいが、使われなくなったことで手入れもされておらず、植物は長く伸びている。  決して昼に来ると近所の人が多くて、侵入できないからというわけではない。本当に気づいたらきていただけだ。  楽しそうだからとか、涼めるからというわけじゃない。霊能力者を名乗っているからには、一応噂の屋敷を見にきただけだ。  私は周囲に誰もいないのを確認すると、屋敷の中に侵入した。 「……ねぇ、サトシ。もう帰ろうよ」 「何ビビってんだよ。幽霊なんて本当に入れわけないだろ」 「ね、ねぇ、サトシ……あ、あれって……」 「………………う、嘘だろ」 「「出たァー!!」」  私は前髪を下ろしてカップルの前に現れて、屋敷から追い払った。 「いや〜、良い仕事をした〜」  妬んでいたわけじゃないよ。危ないから追い返しただけだよ。  私は髪型を元に戻して、屋敷の奥へと向かった。  しばらく進むと二階に通じている階段を見つけた。  階段に近づいた時。キシキシと上から足音が聞こえ出す。 「……まーた、変なのいるの〜」  私は上にいるであろう、遊び人を追い返すために二階へと上がる。そして足音の聞こえた部屋へと入ると、 「…………」  そこには黒髪の長髪の女性がいた。  白い着物に身を包み、透き通るような白い肌に死んだ目で私のことを見つめてくる。 「あの……こんなところで…………一人ですか?」  私が恐る恐る聞くと、女性は小さな声で答える。 「あなたも一人じゃないですか……」  それもそうだった。  しかし、なんだろう。この女性はさっきのカップルとは雰囲気が違う。まるで本物の幽霊のような……。  そう、足元が透けて浮いて見えた…………り……。…………本当に透けてね?  私は女性の足元が透けているのを発見してしまった。 「…………まさか、幽霊さん?」  私はビビりながら女性に質問してみる。すると、女性はコクリと頷いた。 「……………」  私の身体は震え出す。  本物の幽霊。本当に幽霊に出会うことになるとは思ってなかった。マジか、いるのは知っていたけど、本物をこの目で見るのは初めてだ。  震える私を見てか、幽霊は心配そうな顔をする。 「大丈夫ですか?」  あなたに怯えて震えてるんですけど……。  しかし、エセとはいえ、私は霊能力者を自称している。霊能力者と名乗っている以上、私がどうにかしないと……。  私は自分の頬を叩いて震えを止める。そして女性に向けて質問をしてみる。 「……じょ、成仏はしないの?」  すると女性は口を開く。 「私はまだ。成仏はできません」 「なんで……」 「……私にはやらないといけないことがあるんです」  女性はそう言うと宙を浮きながら部屋の奥にある机の引き出しを開いた。  そしてそこから取り出したのは 「ペンと紙……?」 「私は漫画が描きたいんです」  幽霊の未練。それは漫画を描くことだった。  最初は親に捨てられ、その怨みから幽霊になった。元々は長屋がなっていたこの土地は何度も建物が変わり、最終的には屋敷になったらしい。  そしてこの屋敷に住んでいた人物が漫画家だった。  こんな屋敷で住めるほどの漫画家だ。  怨みで幽霊になった彼女だが、いつしかその漫画家の漫画を見ているうちに、漫画を描きたいという気持ちになってしまっていた。  そのことを聞いた私は女性に 「じゃあ、描けば良いんじゃない?」 「何度もチャレンジしてるんですけど、なかなか良いアイディアが浮かばないんです」  女性は悔しそうな顔をして答えた。  彼女はここに長い間、縛られている。それは彼女がこの土地に宿っているからだ。  幽霊は何かに取り憑いていなければ、存在を固定することができないらしい。  彼女はこの土地に取り憑くことで現世に留まり続けている。 「私はこの土地に取り憑いているのでここから離れられないんです。なので屋敷から出ることもできず、アイディアが全く浮かばないんです…………」  確かにずっと引きこもっていたら、漫画を作ろうとしても何も思い浮かばないかもしれない。  前は漫画家が住んでいたとはいえ、必要な資料は全て引っ越しの時に持って行ってしまったようで残っているものは、使い古された丸ペンとチラシなどの裏紙だけだった。 「これじゃ、成仏したくてもできません……」  女性は肩を落として目を潤わせる。  私の仕事は除霊も行なっている。成仏できない霊を成仏させてあげるのが私の仕事だ。  だが、実際のところ知識はない。  なんやかんやあって成り行きでこの仕事をしているだけだ。そういう知識があるわけではない。ないのだが……。 「私に手伝えることはない?」  私は幽霊の女性に聞いた。  私は困っている人を助けたくてこの仕事を始めた。成り行きとはいえ、その部分は貫いているつもりだ。  幽霊は基本的に心身の疲れからの錯覚。それを解消してあげることでストレスから解放して今まで何人かの人は救ってきた……はずだ。  何人かからは苦情があったけど……。  本物の幽霊と出会うのは初めてだが、幽霊だろうと何だろうと困っているのなら助けてあげたい。  私の質問に女性は、 「外に出てみたいです」  と小さな声で答えた。 「何か方法はないの?」 「取り憑くことができるものがあれば……」  女性の話によれば、依代になるものがあれば、取り憑くことができるらしい。  人でも物でも何でも良いのだが、問題がある。 「取り憑く物でも、私との関係性が必要なんです」 「関係性?」 「はい。私はこの土地で生まれ死ぬことでこの土地に取り憑くことができています。この土地と同等かそれ以上の関係性のあるものが必要なんです」 「つまりはアニメオタクはアニメグッズに取り憑けるってことね!」 「なんか納得いかないけど、そんな感じです」 「じゃあ! 早速あなたと関連のあるものを探しましょう!!」  私が腕を上げて元気よく言う。しかし、それとは対照的に女性は下を向いた。 「……無理です」 「え……?」 「私が死んだのはもう100年以上前なんです。そんなものどこにもありません……」  諦めるように告げる女性。だが、本心はそうではないはずだ。  無理とは言ったが、外に行きたいという気持ちがある。だから私に話したのだ。  でも、そうやって諦めたように言うのは……。 「あなた、私が迷惑してると思ってるの?」 「……」  私は胸を張って女性を見つめる。 「私に任せなさい!!」  こうして私は幽霊の女性と関係のあるものを探すことにした。まずは屋敷の中を探索して何かないかを探してみる。 「その丸ペンとかはダメなの? 今成仏できない理由はそれなんでしょ?」  私が屋敷にあるクローゼットを開けながら言うと、女性は首を振る。 「死後からですし、貰ったものならともかく拾ったものじゃ、それだけの力になりません」 「そっか〜」  そう言いながらクローゼットの中を見た私は何かを発見してそれを持ち上げる。 「これなんてどうだ? 呪いのビデオ」 「そんなもの本当にあったんですか!? というか私は無理です」 「じゃあ、こっちは……呪いのAV」 「呪いのAVってなんですか!?」  今度は部屋を変えてまた探すことにした。次に入った部屋はキッチンだ。 「……ここには何もないと思いますけど」  心配そうに言う女性の隣で私は、炒飯を作っていた。 「何やってるんですか!」 「いや、お腹すいたから」 「お腹すいたからって、ここ廃墟ですよ! どこに食材あったんですか?」 「カップルを撃退したら、ドロップした」 「どんなカップルですか! 廃墟で何しようとしてただ!?」  私は完成した炒飯を皿に盛り付けると、 「食べる?」  両手に山盛りの炒飯を持ちながら首を傾げる。 「いや、……私は遠慮しておき……」 「良いって良いって、食いなよ!!」  私は女性の口の中に炒飯を押し込む。  最初は嫌々食べていたのだが、美味しかったのか途中から私が持っていたスプーンを奪い取って自分から食べ始めた。 「どう? なかなか美味しいでしょ〜」  私は自慢げに炒飯を食べながら言うと、女性は涙を流しながら、 「美味しいです……」  と炒飯を口に次々と運んでいく。 「そ、そんな……泣くほど美味しかった?」 「美味しいです。でも、食べること自体が死んでから初めてなんです」  涙が溢れてパラパラの炒飯を湿っていく。それでも炒飯を食べて、すぐに皿の上には何も無くなってしまった。 「死んでから初めてなの? てか、幽霊ってご飯食べるんだ」  私は食べ終わった食器を受け取り、食器の代わりに涙を拭くようにハンカチを渡した。  女性はハンカチで涙を拭きながら、 「幽霊は基本的に物に触ることはできませんから……。関連のあるものとか、同じように不思議な力があるものとか………………………」  そこまで言って女性は動きを止めた。  そして私も遅れて気づいてしまった。  ──炒飯食えてた!? ──  私と女性は驚いてオドオドする。なぜ、触れたのか。  私は炒飯を見る。まさか、まさかこれが……。そう、この炒飯が……。 「あなた、炒飯に埋もれて死んだの!?」 「どうしてそうなるんですか!?」  女性は大きく口を開けて否定した。 「そもそも炒飯は生前食べたことないですよ。山菜とかそんなものです」 「そう、じゃあ、炒飯が理由ってわけじゃないのね……」  炒飯が違う。そうなると彼女の運命の相手は── 「スプーンか!! スプーン曲げに失敗して自爆したのか!!」 「スプーン曲げもまだないです! というか、自爆ってなんですか!! 私はロボかなんかですか!!!!」 「いや、美少女型幽霊ロボットかと……」 「幽霊ロボットってなんだよ」  だが、そうなると残るものはなんだろう。私が顎に手を当てて考えている中。女性はじっと私のことを見つめていた。  そう、魚の死んだような目で……。 「死んでますけど、そんな目はしてません!!」 「心の中にまでツッコミを入れてきた」  しばらく私のことを見ていた女性は、ついに動いた。「ちょっと失礼します……」と小さな声で呟くと、私に向けて手を伸ばしてくる。 「そして私の清い体をベタベタと舐め回すように……」 「やめてください」 「あらま、声に出てた」  女性のひんやりとした手が私の腕に触れる。 「…………冷たーい」  私は思わず声に出してしまった。幽霊の手がこんなに冷たいなんて……。 「気持ち〜〜」  涼んでいる私の隣では女性が驚いた表情で止まっていた。  その顔はまるで白い服にカレーの汁がついてしまった時のような…………。 「どうしたの?」 「どうしたのじゃないですよ! あなたです! あなたに触れられるんです!!」 「へぇ〜そうなんだ〜」 「なんでそんなにダラけてるんですか!!」  気づいた時には私が女性の手を握っていた。それだけ涼しくて気持ちいい。  触られ続けているのが嫌なのか、女性は私の手を振り払う。  そして溜息を吐くと、 「あなた、一体何者なんですか……。私が触れるなんて」 「私か。私はな!!」  私は腰に手を当てて威張るように 「霊能力者だ!!」 「嘘ですね」 「バレたー、あっさりバレたー」  女性は呆れた顔をして私の正体を見破った。しかし、見破った後、すぐに真面目な顔になると、私に対して頭を下げた。 「お願いします!! 私の願いを叶えるために取り憑かせてください!!」
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