追いかけて。

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「やっと巡り会えた。」 僕は、10年間ずっと同じものを追いかけている。 僕が追いかけているものは、本だ。 僕の好きな作家の溝内サリーの恋愛本。 黄色の表紙に男女のイラストがある少女向けの本だ。僕は、古本屋を回り、インターネットで調べたりしたが全く情報がなかった。しかしだ。 一週間前のある日僕はまたネットサーフィンをしていた。不要な品を売るサイトの片隅についに出ていたのだ。間違えるわけはない。 黄色の表紙。僕はすぐさま購入手続きへ進んだ。 そして今日ようやく届くのだ。10年間の片思いにさよならできる。僕は心から嬉しかった。 何かを追いかけていると、どうして邪魔が入るのか。いつもは忙しくない会社なのに、あちこちから僕のもとに仕事が舞い込んで来た。僕は、ゲームのキャラクターのように右から来た的には、刀を、左手に見える的には、鉄砲を、前から来たものは、チョップをするみたいに片っ端から片付けた。 そして20時。全ての仕事を終えて帰宅する。 自宅マンションのエントランス扉を開けて、まっすぐ宅配ボックスに向かう。扉を開き、段ボールを抱え部屋に戻った。 僕は風呂に入り身体を清め、手には手袋をして段ボールを開けた。中にはまた、コンポー剤が入っていたが黄色の表紙が見えた。 僕は段ボールの匂いを嗅いだ。そして表紙を眺めてからページをめくる。古本の匂いは僕の10年間の思いの匂いだ。良い香りがする。 やはり、溝内サリー最高だ。 僕は一気に本を読んだ。そして2回転目に入った頃、窓の外がうるさくなった。警察が来たようだ。 警察官は僕の部屋にやって来た。 「警察です。葉山みどりさんの殺人の件でお聞きします。開けてください。」 僕は窓から逃げた。全速力で走った。 僕は溝内サリーのストーカーだ。 サリーは僕を無視して別の相手と付き合った。 だから僕はサリーを殺したのだ。 サリーの首からは血が飛び出していた。 僕はサリーを10年間も追っかけた。 次は僕が警察に追われる番だ。
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