いじくりこんにゃく

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真山さんが望実さんの遺影を大事そうに抱えて熟睡する譲治さんの頬を手の甲で優しく撫でていた。 「俺もお前と似たような境遇で育ったんだ。俺はまだいいほうだ。児童養護施設に入れたからな。譲治、お前こそ幸せになれ。妹の分もな。そのために生かされたんだから。卯月の兄貴に感謝して、命を粗末にせず大事にしろ」 「あっ………」 目が合ってしまった。 「ごめんなさい。洗面所に行こうとしたら声が聞こえてきて」 「別に構わない。夜中に何度か聡太が起きたはずなんだが、すっかり寝込んでいてまったく気付かなかった。もしかして未知、きみが聡太のオムツとミルクを?」 「陽葵が起きたと思ったら聡太くんの泣き声も聞こえてきたから。紗智さんと那和さんと亜優さんと交代で」 「すまん」 姿勢をただし頭を垂れる真山さん。 「謝らないでください。子育てはみんなでするものです。お互い様ですから」 気持ちよく寝ている譲治さんと聡太くんを起こさないように小声で返して仏間をあとにしようとしたら、 「産んだ瞬間から母親になれる訳じゃない。私は女でいたい。産んで後悔している。今さらいらないと言われても、聡太がかわいそうだ」 寂しそうに呟く真山さんの声が聞こえてきた。
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